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部屋に入ったメイリンはその奥にいた人物に驚いた。
(なんだ、アレ。すごく、キレイ。)
その感想で埋め尽くされるほどの容姿だった。
緩くウェーブの掛かったボリュームのあるロングヘア、それを左右に分けて流していた。顔はすっきりとしているのに目つきの怪しさで妖艶さが出ていた。体を見れば誰もが目を見張る双丘が胸と尻にあるが、それを支えているであろう腰は括れ、足は細かった。着ている服は、その妖艶さにあった、両肩と足の一部を出しながらも引き立てるような衣装だった。そして、足に付けてあるホルスターの中には短めの棒があって、それも様になっていた。
(こんなキレイな人いたんだ。)
その妖艶な女性は椅子に座りながら、入ってきたルインに問いただした。
「お仕事お疲れ様ルインさん。それで、面白い物ってその肩の子?」
「どうも、娼館長。その通りです。」
そう言ってメイリンをゆっくりと床に置いて、そのまま床に座ったルインは説明を始めた。
「簡素に説明すると、仕事が終わって家に帰ってきたら、表の扉が破壊されてたんですよ。まあ、泥棒だと思ったので捕まえようとしたのですが逃げられましてね。で、何が盗まれたか確認してたら一人隠れていまして、捕まえたら光る物があったので連れてきました。」
「ふぅ~ん、その光る物って?」
「判断力と記憶力と行動力。」
「それだけなら泥棒なら誰でもあるでしょ?珍しくはないわ。」
「人が帰って来たのに気づいて自分でしか隠れられない所を見つける判断力、荒らした物を短い時間で住人に違和感のないレベルまで配置を戻した記憶力。見つかった瞬間に即、逃げに入る行動力。これでもダメですか?」
「光りすぎね。できすぎていて、安い喜劇を聞いてるみたい。」
そう言って、ホルスターにある棒を引っ張り出して手で広げ、広げた棒で顔を隠しながら思考に耽っていた。
(なんだアレ?あんな珍しいものあるんだ?)
この時のメイリンは知らなかったが、それは扇子と言われる物で、中でも鉄扇と呼ばれている物だった。
思考が終わったのか鉄扇を閉じると、ルインに対して顔を向けた。
「良いわ。引き取ってあげる。この子をつかえる物になるようにしてあげる。」
「ありがとうございます。」
「それで、どっちで使うの?できれば今日の仕事の方では嫌なのだけど?」
「俺もこんなのに、今日の仕事を教えるのは嫌なので、ココの作法を。」
そう言って、床を指で叩いたルインを見た娼館長は笑顔になった。
「よかったわぁ~。お手伝いは何人いてもいいから。」
「判ります。これだけ広いと掃除だけでも大変ですからね。浄化の魔法も万能じゃないですからね。」
「それ、『シスター』に対しても言える?」
「あの人は別格でしょ。あそこまで出来るのは一種の異常です。」
そうして、笑顔で近づいてくる娼館長。ただメイリンは近づいて来る娼館長が何故か怖くなった。
(なにこれ、早く離れたい。)
離れたいのに動かせないジレンマの内に娼館長はメイリンに近づくと、できるだけ同じ目線になった。
「初めまして。あなたを引き取ったこの娼館『スノームーン』のオーナーの、パイン=ネイリスって言います。あなたのお名前は?」
そう聞かれても、何もできなかった。
「すいません。まだ身体麻痺の魔法解いてませんでした。今、解きます。」
「あなたねぇ~。せっかくカッコ良く決まったのに、今ので台無しじゃない!後、あたしの名前を覚えさせる為に出てくまで名前で呼んで。」
「了~解。【身体麻痺:解除】」
そうして、解除されたのが分かった瞬間に少し飛びのいた。
「あら、警戒心も強いのかしら?でも何で?できるだけ優しく、笑顔で近づいたのに?」
「薔薇に見えたんじゃないですか?」
「何それ?」
「『奇麗な薔薇には棘がある』って言って、美しい物には危険があるって意味ですね。」
「噓でしょ!?こんな子供に警戒される程怪しまれたの!お姉さん悲しいわぁ。」
ヨヨヨっと悲しそうに崩れているパイン。その行為が何故かメイリンの警戒心を崩した。
「それにしても、ルインさん。仕事終わりに災難でしたが、そんなに配置に違和感なかったんですか?それにこんなすぐに警戒してたなら、相当変な場所に隠れてたんでしょ?よく見つけられましたね。」
「発見した場所は治療室でしたが、魔法薬や重要品は魔力登録式の戸棚とかの中なのでそこは無視できます。取られても良い道具の類はその場所に決め置きしているので記憶と違えば違和感が出ます。それが無かったので部屋を出ようとしたのですが、あの部屋は定期的に浄化の魔法が掛かる様になっていて、ちょうど出るタイミング魔法が掛かりました。そしたら臭い匂いがしてきたのでどこだろう?と思ったらベットの下にいました。」
「あなたから見たら全部偶然ね。ほんとに喜劇みたい。」
発見の種明かしをされたメイリンは、余計に毒気が抜けられたせいか、先程の問いを返した。
「・・・ナナシ」
「ナナシ、それが名前?」
「違う、本当に名前が無い。だからナナシ。」
「あああぁ~。」
「浮浪児ここに極まれりだな。この調子なら苗字も無いだろ。パインさんどうする?構造解析で性別と大体の年齢を調べようか?」
「そこまで出来るならお願いします。」
「了~解【構造解析】・・・お前、女だったのか?まあ、骨格からの推定だけど8歳位だから、声だけだとちょっと判断できないか。・・・解析終了。正確な年齢は『シスター』に頼んでくれ。」
「じゃあ、あなたはメイリン。今日からそう名乗りなさい。判ったわね、メイリン。苗字も年齢詮索も後、まずはお風呂と食事よ!いっぱい食べさせて奇麗にしてあげる!」
そしてあれよあれよと流されるメイリンだった。
切りがいいのでここで切ります
娼館長のキャラを考えた時には鉄扇が一番に浮かびました。その鉄扇はトンデモ代物です。
ルインがメイリンの性別が分からなかったのは髪が長すぎて体が隠れて判別できませんでした。
魔力登録式の○○
基本的に登録した人以外には反応しません(今回の場合は開けられない)
無理に破壊しようとすると硬化の魔法が掛かって、破壊が簡単にはできないので非効率
お値段は高いですがルインの場合はケイが見習いの時に売り込みに来たのでその時格安で作ってもらった