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「あれ、何やったんだ?俺には浄化の魔法にしか見えなかったが・・・。」
マグノリアの仕事が見える位置に立っていたジタンは隣に居るルインは疑問を訪ねた。
「あのなぁ、一応言うが殺しの技を解明するのはマナー違反だぞ。」
「つまり技の解明は別に禁止されてる訳じゃ無いと・・・。なら教えてくれ、あれの調書を上手く誤魔化さんといかんからな。」
「・・・魔法の応用範囲が広いのは判ってるよな?警邏隊なら捕縛鎖の応用位ならスッと出るだろ。」
「まあな。俺は大体、腕に巻き付ける方にするな。」
「彼奴のはそれの極致。まず最初にターゲットが出会った時点で魔法の虜だよ。」
「はぁ?」
「幻覚魔法については判るか?」
「あんな産廃魔法か?あれは術者が見せたい幻覚を対象に見せる魔法だが、実際には対象の抵抗力が高いから殆ど掛からないぞ。」
幻覚魔法はジタンが言った通りに術者が対象者に対して都合の良い幻覚を見せる魔法だが、実際には子供でも術を弾き返せる為、魔法抵抗力の実技で使われる程度の物であった。
「彼奴のはそうならない様に対象の頭の中を弄ったんだよ。」
「いや、無理だろ!?」
「実は幻覚魔法は一応は掛かるんだよ。『こんなのあり得ない』って言う風に思えばそれが幻覚に陥ってるって気づくんだが、かかる瞬間に脳の回路弄って『掛かって無い』って思わせるのさ。」
幻覚魔法は相手の脳に作用して幻覚を掛ける為、その脳を魔力で弄ってしまえば簡単に掛ける事が出来るのだが、人間の脳に精密な操作をするのは至難の技なので、殆どの魔法使いはそんな事せずに攻撃魔法の方に傾倒する事が多いのであった。
「・・・人間業か?」
「残念ながら俺もできるんだわ。で、一度掛かってしまえば後は何でも出来るからな、ターゲットは風も吹いて無いのに顔を覆ったろ?あれも幻覚の一種。」
「実際は風刃の魔法なのに顔を覆ったのはその為か。」
幾ら幻覚とは言え実際の傷を幻覚で作れないので傷を作るのは乱風刃の下位に当たる風刃の魔法で作り、それを不自然に思わせない為に幻覚で突風が吹いたように見せかけて傷をつけたのだった。
「で、此処からがタネのキモだ。浄化の魔法の効果は掛けた術者が不浄と思った物を浄化するんだが、その対象は何でも良いんだよ。彼奴はターゲットの血を不浄と認定して全身の血液を浄化して真水にしたのさ。」
「それで人が死ぬのか?」
「死ぬよ。血液ってのは色んな物で構成されてるんだが、その中の殆どは生きていく上で必要な成分ばかりだ。そんなのが全部真水に変わったら、直ぐに意識が昏倒してお陀仏さ。」
血液の中には酸素を送る赤血球や病原菌を駆逐する白血球等の人として必要な物が大量に詰まっており、血液総量の3分の1を失えばショック状態に陥り半分が無くなれば即死する為、今回の様に全て真水に変わればすぐに死んでしまうのであった。
「・・・えげつねぇ。」
「えぐいな。俺もあの死体を始めて見た時は意味が解らんかったぞ。何せ全身の血液が真水に変わってたんだからな。原理が判らんと『如何してそうなった?』としか言えなかったからな。」
「どっちの原理だ?」
「魔法のだよ。治療者が人体構成の方で原理不明を出したら、もう一回学校からのやり直しを宣言されるさ。」
「確かに。・・・なんか周りをきょろきょろし始めたし、そろそろ行くか。」
「だな。」
2人が暗がりから静かに出ると、その音に気付いたマグノリアがその方向に向いた。
「ルインさんと・・・警邏隊の隊長さん?如何されたんですか?こんな夜中に。」
「どうも今晩は。その下の人、どうされたんです?」
「・・・此処に来た時には死んでいました。此処には呼び出されました。」
そう言ったマグノリアは少し半身になり1歩後退った。
いつでも何かできる構えを取ったマグノリアに対し、ジタンも同じ様に脱力して状況を見定め始めた。
「ジタンさん、質の悪い冗談やめな。マグノリアさん、こっちは新人の社会見学中だ。つまり御同業。」
それを聞いたマグノリアが少し脱力した後、悲鳴の様な金切り声を上げた。
「とんでもない新人が入りましたね!危うく殺すところでしたよ!」
「そうならんようには構えたがな。さっさとネタバラシするのはどうなんだ?」
「しなきゃ殺し合いの始まりで俺まで被害が出たわ!何考えてんだこの戦闘狂!」
「あんたなら大丈夫だろ?」
「死体の方までは考えたのか!?」
「・・・あっ。」
「そう言う事だ、あまり変な事をしないでくれ。」
そうして死体に近づいたルインは簡単な検死を始めた。
「検死の意味あります?ちゃんと死んでいますが。」
「癖だよ。それに、今回に限って言えば近くに非番の警邏隊員が居るから、そのまま持って行ってもらおうかと思ってな。」
「非番なんですか?こんな忙しい時に。」
「逆だ。忙し過ぎて昼夜問わず5日も詰めたから、無理矢理休まされた。」
「・・・ちゃんと死んでる。この検視は国王公認異端治療師ルイン=ギルファが死亡を確認しました。死因は敗血種の類。何らかの方法で全身の血液が水に変わっています。変死体です、と。」
「承知しました。少し大きめの詰め所に運び、遺体を一時保全します。」
仕事上の定型文を交わす2人を白々しくマグノリアは見ていた。
「それでどうして御2人は此処に?密偵の方は?」
「さっきも言ったが社会見学だよ。密偵の方はパインが入札者を粛清するから忙しいらしい。」
「そう言えば変な人が入札してましたね。あの人誰です?」
「今回の事件の加害者一味。大方、この街の利益に目がくらんで奪おうとした馬鹿だろ。」
「・・・入札、奪えばよかった。」
「やめとけ。アンタもパインの戦闘力は知ってるだろ?」
現場を想像したのか2人が青ざめていた。
「ジタンさん、あんたも知ってるのか?」
「いや、知らん。だが噂が本当なのは知っていてな。現場を想像するに悲惨だろうなと思って・・・。」
「その数倍は悲惨だぞ。」
『うへぇ』と声を出したジタンが死体を担ぐと、詰め所に向かって歩き始めた。
だが、数歩歩くと足を止めてマグノリアに質問し始めた。
「なあ、シスターさん。アンタは今回、子供が犠牲になったから動いたんだよな?」
「そうですが?」
「その事件に同僚も巻き込まれてたんだが、それについてはどう思ってんだ?」
「どうって・・・死んでいたら悲しかったですが、生きているので別に・・・。」
「義憤とか無いのかよ?」
「義憤何て物はあやふやな物ですよ。それよりも未来に希望がある子供が亡くなる方が許せれないんですよ。特に今回は私達がお世話した子供が亡くなりましたので念入りにやりましたね。」
その宣言を聞いたジタンは器用に頭を掻きながらルインに問いただした。
「こんなんばっかか、この組織?」
「正義感なんて最初に捨てた方が良い。その方が身のためだぞ。」
「そうかよ。」
「ただアンタの場合は別かな?表では正義を貫け。駄目なら裏で冷酷に事に当たりな。」
「聞いておこう。じゃあ仕事があるんで。」
そうしてその場を去ったジタン。
後に残った2人は少し話し始めた。
「青臭いですね。」
「入り始めはあんたもあんなんだったぞ。」
「そうでしたか?何分昔なので・・・。」
「初めての殺しで青ざめて吐いて世界の不条理を叫んだ奴とは思えんな。」
「もう、やめてくださいよ。」
軽くルインの肩を叩いたマグノリアは恥ずかしそうな顔をしていたが、次の瞬間には普段の柔和な顔になっていた。
「アンナの事、有難う御座います。ああは言いましたが、やっぱり生きているのは嬉しいので。」
「気にすんな。俺は仕事をしたまでだ。」
「そうですか・・・そうですね。じゃあ、今日はこれで。」
「ああ、気をつけてな。」
そうして悲惨な現場からろくでなし達が帰路に就いた。
切りが良いのでここで切ります。
そう簡単に突風が吹いて傷つかないよ。
後、ジタンが目指すのは作者目線ではジョーカーと言うドラマの伊達さん。
使用魔法説明
幻覚魔法・・・系統外系統の魔法で相手に幻覚を見せる。一応は掛かるが直ぐ解けるので世間では産廃扱い。(今回みたいに頭の中弄ればかかる。)
風刃・・・攻撃魔法風属性の魔法で風の刃で切り裂く。所与乱風刃の下位互換。(風刃が1個、乱風刃は複数個)
浄化・・・系統外系統の魔法で対象の汚れを払う。使用者が汚れを指定できる。