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異界暗殺業  作者: 紅鈴
聖女
108/180

5-25

マーガレット=ディメテアと名乗っていた女性は夜の王都を駆けていた。

数か月前に入ったある仕事が終わり、その後始末の為の準備が整ったとの連絡があったので、脱出予定地まで静かにかつ急ぎながら走っていた。


(しかし最悪な仕事だった。まさか孤児院に入って、アンナを孤児と共に連れ出せなんて。)


本来の仕事は王都内の孤児院に潜入し、そこから孤児を売りつけて儲けを出す事だった。

それが何故か、教会員であるアンナを上手く引きずり出す様に指示されたのだった。


(旦那の方で何かあったのか?まあ、私には関係ないけど。)


依頼の元受けである『旦那』は他国出身の遣りて商人で、表では食料品や食器等の生活用品を売りさばいているが裏では人身売買を手掛けていて、高位貴族の中でも異常性癖の顧客を相手にかなりの高額で取引をしている存在である。

顧客も幼児趣味者から加虐趣味者と幅広く、裏は常に商品不足に陥りやすい為各国各地に人員を配置し、商品を逐次補充する部隊がある程であった。

彼女もその一員でロイズ王国の中で暗躍をして、商品になる存在を上役に報告するだけだった。


(潜入期間が短かったし、かなり強引な手を使ったから怪しまれると思って逃げ出したが、まさかド派手にやるとはね。アンナの奴、何やったんだ?)


前院長退任に伴う交代に託けて潜入していたが、定例の連絡でアンナの事を話した時から『旦那』の様子がおかしくなり、次の定例会でアンナの連れ出しが決まった。

『無茶苦茶な指示でも良いので動き辛い様にしろ』と言う命令を聞いて新入りの孤児を付けたが、案の状、他の教会員に怪しまれたので教会から抜け出したまでは良かった。

仲間が使用禁止の魔法を使ったのを知った時は最悪だった。これでこの街から出辛くなった為、何らかの方法を使わなければ出られないが、その方法の指示が無かったのがケチのつき始めだった。

まさかの3組織合同の捜査網に各地の隠し拠点に一斉捜査からの裏組織の捜査参入の噂、止めが予想より早かった身バレによる顔の公開とそれに伴う捜査網拡大。

どう見繕っても逮捕されるのがオチだったが、今日になって脱出の目途の連絡が来たのだった。


(どうやって脱出するかは判らんが、何としても生き延びて婆まで生きてやるんだ!)


そんな誓いを立てながら駆ける事数十分、やっと目的の地点に着いたがすでにおかしかった。


(何で誰も居ないんだい?まさか私をおとりに使う気じゃないでしょうね!?)


横の繋がりさえあれど仲間意識なんて無い組織だから、邪魔になれば消されるのは判っていた。


「お待ちしておりました。」


そんな中、暗がりから仮面をかぶった人物が出て来た。

最初は驚いたが、回収の為に派遣された人物だと思い至り、警戒を解いた。


「どうなってんだい?他の奴は?」

「お静かに。他の方との合流地点まで行きますので付いて来てください。」


そう言われれば素直に付いて行くしかなかった。


「他の奴も其処に来るのかい?」

「その予定ですが、現在の状況ですと何人かは捕まるかもですね。」

「私は捕まりたくないね。」

「可能な限りは善処いたします。」


そう言って案内人が歩き始めたが、その案内人は改造されたトゥニカを着ていた。


(教会の人間か?足にスリット入れるなんざあ、碌な奴じゃねえな。)


教会の固い戒律の中には服装の改造禁止も入っていた。

『身綺麗の為には素肌をさらすことなかれ』と書かれた事で下手な改造は懲罰対象になったので、現在では服装の改造をする教会員はほぼいない。

ただ、戒律に疑問や反感を持つ教会員も少なくないのでその一部が見えない程度に改造をして、業務に当たっていた。


「あんた教会員かい?中々挑戦的な服装じゃないか。」

「お褒め頂き光栄です。多少の戒律違反で涼しさを求められるならとやってみたら、癖になりまして。」

「良いこった。あんなクソ組織に従ってるだけじゃ何もできないさ。」

「あなたは孤児院に潜伏していたそうですが?」

「そんなのフリさ。私はどんな方法でも金稼いで悠々自適な老後を目指すのさ。」

「素敵ですね。」

「そうだろ!だから、こんな所でしくじりたくないのさ。」

「そうですか。」


そうして黙った案内人が何度か角を曲がった時に、強烈な風が吹いた。

何とか顔を覆ったが、何処かから飛んで来た木の破片で肌をザックリと切ってしまった。

その傷は地面に赤いしみが点々と広がりそうなのを感じた。


「すまん、修復の魔法は使えるかい?私は使えないんだ。」

「畏まりました。」

「助かるよ。こんな傷で追跡されたら、他の奴にも迷惑だからね。」

「お仲間は大事ですか?」

「いや、全然。ただ今回に限って言えば一蓮托生だからね、ミスの責任になりたくないのさ。」


修復の魔法を掛ける為に近寄って来た仮面の人物に、傷ついた腕を差し出すとすぐさま魔法を使う兆候が見えたが、


「では、【浄化】」


使った魔法に違和感を覚えた。


「は?なんで・・・!?!?」


言葉を紡ごうとしたら急激に意識が遠退き始めた。


(何が・・・!!!)


呼吸も何もかも正常にしていた筈なのに、浄化の魔法を掛けられた瞬間に体の中が全部狂ったように騒ぎ始めた。

何とか立とうと思っても体に力が入らず、地面に倒れてしまった。

それを確認した仮面の人物が仮面を取った。


(マグノ・・・リア・・・!何・・・で・・・!)

その仮面の下の顔はマグノリアだった。

普段の柔和な顔が完全な無表情となっており、恐怖を感じ始めた。


「どうも殺し屋です。貴方を銅貨1枚で殺しに来ました。」

(銅貨・・・1枚だと・・・!)

「さっさと苦しんで死んでください。それがシオンの為です。」

(何で・・・あのガキ・・・の事なんか・・・!)

「何か抵抗しようとしても無駄ですよ。貴方が死ぬまで浄化の魔法をかけ続けるので。」

(だから・・・何で・・・あんな・・・魔法に・・・攻撃・・・でき・・・)

「攻撃魔法だけが危険じゃ無いんですよ。応用できてこそ魔法は真価を発揮しますので。」

(嫌だ・・・死に・・・た・・・無い。)


マーガレットと呼ばれた女は苦しさから喉を掻きむしり始めたが、暫くするとそれも出来ずに動かなくなった。

そうして動かなくなった死体を見下ろしたマグノリアは、静かに祈りを捧げ始めた。


「主よ、この者の犠牲者に安寧を与えたまえ。主よ、この者を無限の苦痛に落としたまえ。主よ、我が蛮行のツケは召しました時に払います。なので、これからも私の我が儘を許したまえ。」


静かに祈る姿は神々しいが、その下の惨劇には目を向けていなかった。

切りが良いのでここで切れいます。

何やったかは次に話します。


戒律堅過ぎない?問題

一応宗教ですのでこれ位は固い所は有ります。(実際仏教でも職務中の服装の規定はあります)

ただ、暑い時期には服装の生地を変える位は許されていますのでそれでしのいでます。

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