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異界暗殺業  作者: 紅鈴
聖女

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107/202

5-24 

「こんな所に、こんな場所があったとはな・・・。」

「色んな場所にあるぞ、こんなの。」


ジタンはルインに引き連れられてある建物の地下に入った。


「いや、流石に年中公演をやってる劇場の地下なんて判らんだろ。」


その建物は使用劇団が建物の修繕費を出す代わりに、どんな小規模劇団でも自由に使う事が出来る劇場であった。

2人は劇団関係者入り口から入り、劇団関係者すら知らない秘密の入り口から劇場の構造図には載っていない地下に向かっていた。


「まあな。ただ、ここを使うのは本当に久しぶりだな。パインの前のオーナーが高額な依頼料を貰った時以外使わなかったんだが、今になって何で使うんだ?」

「前のオーナー?」

「この組織って結構古くてな、俺よりも勤続年数が上の奴も居るんだ。だから代替わりも何回かは起きているんだが、俺が知ってるのは前オーナーと現オーナーのパインだけだ。」

「・・・少なくとも50年前から在るらしい。情報ソースは警邏隊の資料からだ。」

「ならもっと前からあるな。前オーナーは化物みたいな人でな、引退時は3桁の年齢だった。」

「・・・よくボケが無かったな。」

「何でも『健康的に生きればボケる心配は無い』とさ。治療者としては定説の1つ程度だがな。」


先導されているので顔は見えないが恐らく苦笑いを浮かべているルインは『金勘定も情報の選定も1人でやってたからボケる暇がなかったかもな』とジタンに告げた。

そうこうしてると目の前に大扉とその傍に控える人を見つけた。

傍人は2人を見つけると深々とお辞儀をした。


「お待ちしておりましたルイン=ギルファ様、ジタン=オルフェス様。オーナーから聞いております、どうぞ中にお進みください。」


そして優雅な動作で扉を開けると、2人は案内の通りに中に入った。


「中も広いな。」

「俺が知っているオークション会場の中でも1、2を争う広さだからな。」


上の劇場と同程度の広さに階段状になった客席、司会が立つ為の舞台があり、その左右に舞台袖迄ある構造はかなりの金額がかかっている事を物語っていた。


「いらっしゃい、2人共。少しこちらで話さない?」


舞台に近い客席に座っていたパインが2人を手招きした。

その誘いに従い2人はパインの近くの席に座った。


「で、開演も大分後なのに、こんな時間に呼び出したのはどういう訳だ?」

「こちらも夕方に呼び出されるとは思いませんでしたよ。御かげで夕食も食べずに来たんですから。」

「御免なさいね、ジタンさんは今日初めての入札でしょ?色々説明しようと思って。」

「それは聞きたいですが、手紙には『厄介事の相談もある』と書かれてましたが?」

「そうね、そっちも関係あるからゆっくり話しましょうか。」


多少だらけていた居住まいを正したパインは、神妙な面持ちで話し始めた。


「御免なさい。今日の入札は複数あるのですが、その全部に入札者が決まっています。」

「「はぁ!?」」


衝撃の告白に2人は驚いていたがその訳を話し始めた。


「簡単に言いますと、今回は先日起きた王都内使用禁止魔法事件の犯人達が的です。その犯人達の中に、別口の入札者が紛れ込みました。」

「・・・成る程。依頼に託けて(かこつけて)別人に擦り付ける気か。」

「擦り付ける相手は私とアンナ=フリューゲ・・・今日手術した相手よね、先生?」

「俺の家に居るな。事件の被害者にして現在重傷者。手術は無事成功、現在は寝ているが、起き次第リハビリ開始予定だよ。」

「いや無理だろ!?相手は被害者だぞ!それにどうやって擦り付ける気だよ!」

「南区の商工業組合の会長がターゲットに居るな。大方でっち上げの準備は9割揃ってて、今日の入札次第でどんな風にでも擦り付ける様にできてるんだろ?」

「正解です。正直、裏で手引きしやがった馬鹿野郎に文句の1つも垂れたいのですが、生憎この街にはいません。ですので、奴らの計画を利用しようと考えました。そうしたら、初めて参加のジタンさんがちょっと邪魔だったんですよね。」

「どう邪魔なんだよ?」

「最低報酬の話さ。依頼の最低料は一応金貨1枚だが、落札については銅貨1枚までが下限なのさ。」

「何で?」

「・・・あんた、一応国側の仕事だよな?貨幣偽造は解るだろ?」

「そりゃ解るよ。鉄貨なんて・・・あ。」

「偽造なんて簡単ですからね、錬金術師って。」


貨幣は他国でも共通なのは金貨までで、他の貨幣に関してはその国で決められた文様と重量が合わさって初めて貨幣としての効果を発揮する。

また、錬金術師の存在が貨幣偽造に大いに関わっており、一時期は簡単なメッキ処理だけした粗悪品の偽造貨幣が流通してしまった関係で、魔女狩りの如く錬金術師が逮捕される事態になった事があった。


「だから流通の多い鉄貨は入札に使用しないって言う風に決められてるんだよ。それを破ると即、殺される羽目になる。」

「・・・そう言うのは事前に話してくれ。できれば最初の報酬を貰った時に。」

「出来なかったんですよ。確実に次も来る方じゃないと。」

「何で?」

「さっき『別口の入札者』って言葉が出たな。あれはそのままの意味で、この街以外にもこういう組織が在って、この街以外でオークションに参加する場合があるんだよ。その街のしきたりとかが在るから、毎回入札時に説明があるのさ。」


オークション開催時の説明は新規参加者の為の説明と別の街からやって来たものへの説明を兼ねた物で、その街としてのしきたり等を説明するための場でもあったのだ。


「あ~・・・って事は俺の初めての仕事が他の街に赴任してそこでやる可能性もあったのか。連絡とかは?」

「裏でしています。」

「成る程。なら新人の情報も直ぐ拡散するな。」

「そうです。さてここでの最低限の説明が終わりましたが、この先にはルインさんも関係しています。」

「何だ?」

「申し訳ありませんが今日の入札から依頼完了までをジタンさんを引き連れてお願いしたいんですよ。」

「何で?密偵は?」


何時も仕事時は密偵がサポート兼監視の為に着くのだが、今回は出来ない事に疑問があった。


「今回の落札者は2人です。片方が例の別口で、もう1人はルインさんなら判りますよね?」

「まあな。」

「別口の方でちょっと密偵を大動員したいんですよね。そうなると現状の人員だともう1人が見れなくて、じゃあ社会見学と言う事でジタンさんに見てもらおっかなと思い付いたんですよ。」

「で、保護者として俺に白羽の矢が立ったと、・・・『鍛冶屋』や『網元』は?」

「御2人共、明日が早いので同道を拒否されました。ルインさんは明日、定休日なのは判っていたので最終手段としていたんですよ。」

「一応、入院患者が起きる可能性が在るんだがな・・・。まあいい、結構深く眠らせたから大丈夫だろう。」

「あら、メイリンは使わないの?」

「頼んではいるが、リハビリの説明は俺がしないと駄目だろ。メイリン、意外と口下手だし。」

「まあ、そうね。端的には言うんだけど、長文での説明だとちょっとね。」


出会って数年だがメイリンの対話能力は出会った当初から一番変わってない部分だった。

そして先程から疑問に思っていた事をジタンは話した。


「なあ、別口は良いとしてもう1人の落札者って誰なんだ?」

「今回の事件って幼い子供が死んだろ?それをやったら黙って無い奴がいるのさ。」

「だから誰なんだよ?」

「それはな・・・」


意外な人物の名前を聞いたジタンは世も末だと天井を仰いだ。

切りが良いのでここで切ります。

『鍛冶屋』は前回の章で出てきましたね。『網元』がいつか書きたいろくでなしです。

尚、前オーナーは物語には出てきません。(齢3桁歳は出せねえよ。)

次章のネタバレですがパインの章で、今回の裏での出来事をやります。


他にオークションのしきたりは?

共通は貨幣問題位です。

細かい所になるとパインの仕切りのオークションでは

・別の入札者が落札者への襲撃禁止

・依頼人に交渉しての値段引き上げ

・同時入札時は何方かが仕事できてればOK

等があります。

(問題が出来たらその都度考えます)(オイ!)

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