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異界暗殺業  作者: 紅鈴
聖女
106/180

5-23

(何か愉快な人だったな、ルインさんって。)


夜、早めに寝るように指示したルインが出て行き、『トイレに行く』と言い残して出て行ったメイリンがいない病室でアンナは今日、起きてからの出来事を耽っていた。


(話合わせて不安を取り除くのが目的だったのに、それで怒るんだもん。)


結局4人はあの後、病院の営業終了時刻大幅に超えて居座った。

『明日手術だって言ってんだろうが!!!』と怒鳴り込んで来たルインを見て、2人がそっそくさと出て行ったのは中々に愉快だった。

ただその後の会話が不思議だった。


(何で『力が有れば復讐したいか?』なんて聞いてきたんだろ?)


2人が出て行ったのを確認して多少の問診を行った後、突如天井に目線を向けたのだった。

其処から乾いた笑い声を出した後、唐突に復讐の話になったのであった。


(できればしたいけど、この体じゃね。それに、犯人判んないし。)


昼の説明を聞いていたアンナだったが、『直ぐに体が動かせる様になる』とは一言も言っていないかった。


(だから問診しにきた時に、動けるかどうか聞いたんだよね。)


結果は『直ぐは無理。再度起きてからある程度時間がいる』との事だった。


(爆破の傷が結構、酷いんだよね。)


修復の魔法で内臓や筋肉等は修復させたが、流石に3日間の熟睡は機能回復としては短かったらしい。

『最低限動けるようになったから起きたのだろう』とはルインの言葉だが、それでも自分が体を動かそうとすると全身が悲鳴を上げそうになる状態なので、コレを回復させるには相当な日数が必要なのは判ってしまった。


(こんなんじゃあ、犯人に逃げられるからね。)


答えとしては『自分でしたいけど、その間に全部解決してる』であった。

3組織合同での調査に加え裏組織も関わるのなら、自分が完治して動けるようになった時点で犯人は捕まっているだろう事が予測できた。

それに自分はあくまで教会員であって、捜査の専門家じゃない。

商業組合の方も情報収集が主で、実際の捜査は警邏隊と騎士隊が動いてるのはマグノリア達から聞いていた。

それだけの大規模捜査なら、犯人は数日後には捕まっているだろう事が予測できた。


(できれば犯人は死刑にして欲しいんだけど、出来ないだろうな。)


現在の犯人の罪状は街中での使用禁止魔法の使用であって、殺人罪と傷害罪は別件として扱われていた。

捕まった際に罪状の上乗せはされるだろうが、実情被害が少なすぎて死刑では無く重犯罪者として扱われる公算と言うのが警邏隊からの情報だった。


(シオンに申し訳無いなぁ。あれだけ楽しんでたのに・・・。)


1月の付き合いとは言えシオンは孤児院の中での暮らしを嬉しがっていた。

安全な寝床に腹一杯とはいかなくても満足できる量の食事、怪我をしてもある程度なら治してくれる存在は、元ストリートチルドレンとしては破格の物であった。

当人からすれば多少は嫌な事もやらなければいけなかったが、それでもこの1月は笑顔でいるのが多かったとアンナは思った。


(御免ね。私が強かったら色んな事が出来たけど、私は弱いからね・・・。)


家が凋落して乗っ取られた時も悔しかった。親戚に預けられ教会員なった後は魔法の腕を磨いたが、魔力が魔法騎士団に入隊できる程の量では無かった為、入隊試験すら受けられなかった。

諦めて教会の仕事として孤児院に赴任したら、入隊を拒否したのが2人も居て余計に悔しかった。

今回の事でも頻繁に索敵を掛けていたのに、その範囲外からの魔法を警戒しなかったせいでシオンを死なせた。


「ひぐっ・・・ふぇえ・・・。」


悔しくて涙が出始めたその時だった。

何かが天井から静かに落ちて来た。


(は?・・・へ?・・・何?)

「お静かに。怪しい者ですが、有益な事を話しに来ました。」


落ちてきたモノ・・・外套を纏った人間はスクッと立ち上がってそう告げた。


「犯人ですが、このままだと逃亡されます。」

(え?・・・何言ってるのこの人?)

「理由といたしましては裏で手引きしている輩がおりまして、その者が別人を犯人に仕立て上げて自分達は逃れようとしております。」

「え?」

「所謂、恨み辛みが重なった結果ですね。犯人はある方と貴方を犯人に仕立て上げる気のようです。」

「何で!・・・私、被害者!」

「お静かに。そういう風に仕向けているのですよ。此処まで言えば犯人の1人は判りますね?」

「南区の・・・商工業組合長さん。」

「そうです。さらに言えばその先を辿ればある方に繋がります。襲撃もその方からの提案でしたね。」

「誰・・・ですか?」

「ゴアズ=ドメインと言えば貴方は判りますね?」

「私を・・・妾にしようとした・・・人。」

「そうです。調べた所、貴方の生家であるフリューゲ侯爵家の凋落もその者が関わっています。」


そう言われた瞬間、アンナの中で燻っていた物が燃え上がった。


「・・・せ。」

「大声を出さない様に。」

「お父さんもお母さんもシオンも何もかも全部返せよ!!!」


アンナとしては大声を出したつもりだったが、この部屋に音が籠る感覚がしただけだった。


「お気持ちは判ります。ですので提案です。その恨みを我々に預けませんか?」

「・・・預けたら・・・何になるの?」

「必ず全部にケリを付けます。どの様な形であれね。」


そう言われたアンナだが答えは決まっていた。


「今回の事に・・・関わった全部に・・・罰を。」


そう言い終わった瞬間に強烈な眠気が来た。

体力の限界と悟ったアンナだったが、返事を聞き終わるまでは絶対に起きていようと気合を込めた。


「承知しました。本来は依頼料を取るのですが、実はさる方から多額の報酬を前払いして貰えましたので、今回は要りません。その方からも『全てに罰を』と賜りました。貴方には我々が接触した事の他言無用だけ守って頂ければ、何もいたしません。」

「言い触らしたら?」

「怖ろしい死を。」

「解りました・・・必ず・・・罰を。」

「どうぞご安心して明日の手術にお望み下さい。寝て起きましたら、結果が判るでしょう。」


そう言って不審人物は天井に飛び上がり、そそくさと逃げた。


(何だったんだろ?でも、いいや。全部終わるならそれで。)


逃げ出した何者かの事を考えたかったが、1人となった瞬間に先程の眠気に襲われ、そのまま瞼を閉じた。

切りが良いのでここで切ります。

うん、怪しいな。(此処で普通なら悲鳴物ですよね。)


その頃の医院 グレ-プフルーツ味

「おい、メイリン(怒)」「何?(怯)」「お前何密偵を天井に引き込んでんだよ。」「依頼の確認をパインから頼まれたから。」「どうやって侵入させた?」「私が裏口開けて2階まで手引き。事前に天井裏に拠点を作ってた。」「今すぐ塞げや!!!」「無理!」「見つかったらまたガンスさんにどやされるだろうが!」「大丈夫バレない!」「何処からその自信が湧くのやら・・・」

その後、いつの間にか天井裏拠点を見つけたガンスにこっ酷く叱られたメイリンだった。

(ルインが上を見た理由がコレ)

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