5-22
「つまり、東区の孤児院の院長は偽物で、そいつが犯人を手引きした可能性が在ると・・・。」
「可能性どころか、確定ですね。」
「それは判らんだろ。不確定な情報が在るのなら、それは可能性だよ。・・・まあ、どちらにしろ現状、動物1匹出る事の出来ないこの街に、何もかもが閉じ込められたって事か。」
話を聞き終わったルインはそう締めくくったが、事がそう簡単に片付きそうに無い事を感じて、ため息を吐いた。
(これが元の世界なら捕らえるのは簡単なんだが、こっちだと魔道具がある。顔なんてすぐ変えられるだろうな。)
現実では顔を変えるのは簡単では無いが、この世界には魔道具の存在がある。
幻術の類を使った簡単な物から呪いのような物までそろえればきりが無い程であった。
(そう言うのは使っていると常に魔力を放出してるから、ある程度の魔力検知で引っ掛かる所なんだが、警邏隊の奴ら、其処等辺出来るのか?)
「何か懸念でもあるのか?」
ため息を聞きつけたフリージアがルインに質問を投げかけた。
「いや、魔道具の事がな・・・。」
「ああ、顔か!それは盲点だったが、それは無いぞ。いくら何でも、現状の街中であんな物使えば、『此処に犯人居ますよ』ってばらすようなものだろ?」
「それでもだよ、そもそも「御2人共、そこ迄。」事・・・何だよ。」
「我々が犯人を捜すんですか?そんなのは必要無いでしょ?」
「「確かに。」」
当たり前だが2人共捜査権限は無いのでここで犯人情報の整理をしても意味が無いのであった。
「ですので、ここで終わりです。それよりアンナ、何方を代筆者にするんですか?」
「マグノリア・・・お願い・・・。」
「解りました。代筆いたします。」
マグノリアが了承した瞬間、羊皮紙がマグノリアの方に勝手に飛んで行った。
「契約成立だな。」
「ルインさん、申し訳ありませんが皮膚移植について詳しくお話しください。そうでなければ書けません。」
「いいよ、責任者には説明するのが常だ。」
そう言ったルインは近くの椅子に腰かけた。
「さて、実は前準備自体は終わってるんだ。」
「前準備ですか?」
「ああ。申し訳無いが、先にある程度皮膚を切らせてもらった。」
「おいコラ!!?何やってんだ!!!」
「主には皮膚を培養する為だ。ほぼ全身の張替えだぞ?どれだけいるか判らんからな、出来るだけ多く皮膚を作った。」
「大体どれ位ですか?」
「アンナさんの全身の入れ替えをしてもまだ余る位だな。失敗する気は無いが、とにかくそれ位必要だったんだ。」
「成る程な。」
「他にも壊死してどうしようもない部分を切って、先に別の皮膚・・・今回使う皮膚の原型に張り替えてあるんだ。」
「其方じゃ駄目なんですか?」
「駄目だね。その皮はスライムの薄皮を剥がした物なんだが、気休め位にしかならなくてね。大体、後10日程で剝がれてしまうんだよ。」
「なぁ!!!?」
「スライムですか!?」
スライムと言う魔物は何処にでもいる存在だ。
中心に核があり、核の周りには酸性の水が纏わり付いており、それを薄皮で覆っている存在である。
自発的な攻撃行動はせず、ただ小さな虫を這いずり回りながら溶かして栄養にするような魔物である。
魔物としては弱いが高い再生力を持っており、核を破壊しない限り無限に再生する魔物として知られていた。
「1階の研究室に1匹だけ飼っていてな。そのスライムの薄皮に壊死して無い皮膚を混ぜるとその人にしか使えない人工皮膚が出来上がるのさ。恐らく再生の際に、その人に合うように薄皮が変質するから起きる現象じゃないかな。」
「新発見ですね。」
「いや、新発見だろうけど他人には使えないだろ!何でお前は査定的なんだよ!」
「傷が無くなるなら、我々が苦労して修復の魔法を学ぶ必要が無いのでは?」
修復の魔法の習得はかなり困難を極めるもで、習得しないと永遠と構造の把握と魔法の習得に費やされるので、そこで躓いて教会員を辞める者が後を絶たないのであった。
「いや教義がな・・・。」
「ここまで来たら教義なんて関係ありません。それに、マグヌス医院長にも詳細報告をしなければいけませんので。」
「確かにそうだが・・・。」
「植毛も皮膚が毛に変わるだけだ。ただ、こっちは知り合いの整髪屋に髪の毛を貰って、彼女の色に染め直して植えるだけで、毛根は人工皮膚の御かげで定着するから問題は無い。」
「全行程の成功確率は?」
「80%成功。20%の失敗は何らかの外的要因な物だから、それの排除さえできれば99%は成功だよ」
「私等が外で余計な事を言わなければ良いのか。」
「そう言う事。彼女が心配ならあまり言い触らさない様に。」
「言い触らすかよ。」
「まあ、そんな訳で皮膚移植の概要としてはこんな所だ。施術前に睡眠の魔法を使って深く眠らせて張り替えるから、寝て起きたら新しい物になってるがな。」
「その間の・・・食事は・・・?」
「点滴って言って大雑把に言うと体の維持に必要な栄養素を持った水を直接血管に流し込む。」
「本当に教義違反ばっかりですね。」
「逆に考えろ。そこまでしないと助からんって事だ。」
そう言ったルインは真剣な眼差しで2人を見つめていた。
治療師としての腕は比べるまでも無いのは2人は判っているが、その狂気の眼差しは『患者を救う』と言う意志に込められた眼差しだった。
「マグノリアが言っていた意味が分かった、あんたは狂人だな。救う事に関して言えば右に出ないが、その為には何だってするんだろうな。」
「さっきも言ったが治るのに『死ね』って言うのが嫌なだけだ。治らないならあっさり見捨てるさ。」
「それでも最後まで手は尽くすんだろ?なら、狂ってるよ。」
そう言われたルインはバツが悪そうに頭をかいた。
それを図星と見た孤児院組は笑顔となり、健常な2人は小さく笑い始めた。
「可愛い所があるんだな、あんた。」
「意地だよ、意地。それを可愛いとか言うな。」
「いえ、可愛らしいですよ。・・・書き終わりました。」
契約書にサインをしたマグノリアはその書類をルインに渡した。
その内容を確認したルインは契約書を懐に仕舞うと、ベットの上のアンナに向き直った。
「移植手術は明日、暫くの間は2人と喋って良いが、出来るだけ早めに寝てくれ。俺は通常業務とか色々やっておく事があるから、それに掛かりきりになる。何かあったらメイリンに言ってくれ。」
「解り・・・ました。」
「2人共、明日は臨時休業だ。来てもいいが、できれば午後からにしてほしい。午前中は手術で忙しいからな。それと、入るなら裏口から入って来てくれ。正面から入ると何かやってるのがバレる。」
「解りました(あいよ。)。」
「メイリン、申し訳無いが、かなりの日数此処に縛り付ける。出来るだけ他の人に業務を廻してもらうようにな。」
「それはもうやった。その代わりパインから伝言。」
「何だ?」
「『出来るだけ授業を受けろ』だって。何の事?」
何の事か判らなかったルインだが、見舞いに来た人員を見て思いついた。
「・・・あ~、成る程。マグノリアさん、申し訳無いが魔法の授業を頼む。授業料はスノームーン持ちらしい。」
「どう言う事ですか?」
「見舞いの度にメイリンと居合わせるから、その都度魔法の講習をして欲しいって事。探索者としてのメイリンの腕の向上の為だろう。外出の後付けにも使えるしな。」
「成る程、承知しました。メイリンちゃん、それで良い?」
「良いも何もルインの紹介なら信頼してるから別に。」
「解りました。フリージアもお願い、身体強化ならフリージアの方が上でしょ?」
「こんななりで探索者もやってるのか・・・解った、引き受けるよ。」
「ん、ありがと。」
「大体はこんな所か。じゃあ俺は戻るから、営業終了まで居て良いぞ。」
そうしてルインが病室を去ると、マグノリアが笑った。
「今、昼ですよ。早く寝させる気が無いじゃないですか。」
「可笑しな人。」
「言えてる。」
「そこがルインの良い所だと思う。」
「じゃあアンナ、少しは他愛の無い話をしましょうか。」
そうして営業終了まで4人で話を始めた。
切りが良いのでここで切ります。
不安ですよね、手術って。
実際の成功率は?
ルイン「言ったが?99%失敗しない。マウス実験、人体実験、共に成功。外的要因で下がるから80%にしただけだ。」
(人体実験は探索者としての緊急依頼時に隠れてやった)(その時の患者はかなりの大怪我だったので気付いて無い)