5-21
「何処ほっつき歩いてるんだ、あの院長は!?」
「落ち着いて、フリージア。」
「落ち着いていられるか!引き渡し現場で事件!アンナは重症!シオンは死亡!それなのに院長が2日も行方不明とはどんな要件だ!」
「いつの間にか居なくなっていたから仕方ないでしょ!?」
珍しいマグノリアの咆哮にフリージアが怯んだ。
その御かげか幾分かは冷静になった。
「・・・すまん、頭に血が上り過ぎた。」
「いえ、此方も怒鳴って御免なさい。」
「兎に角、行方不明なのを報告しないとな。」
「ええ、その為に怪我も無いのに此処に来たんですから。」
基本的には院長不在の際の責任者は院長自身の指名で決められるのだが、その院長が指名無しの場合はその街の最高位の教会員になっている。
そしてロイエンタールの場合はマグヌスである為、治療院に赴く事になったのであった。
「ついでにあの院長の素行不良報告もやっとくか。今回の事は相当だろう。」
「汚点どころか、下手をしたら名籍剝奪ものでしょうね。」
教会員の辞め方は色々あるが、一番多いのは密告による素行不良である。
基本的に協議に忠実に生きていればそんな事は無いのだが、身綺麗の為とは言え度が過ぎれば恨みを買う可能性がある。
その恨みが密告と言う形で現れ、謂れの無い形での剥奪行為に繋がるのが実情だった。
そんな事を言いながら治療院に着いた2人だったが、流石にアポイントメント無しにトップにかけあえる事が無いので上級治療師を捜し始めた。
殆どの上級治療師が治療院トップの部下の為、トップへの渡りを付けるのに丁度良かったのである。
「おや、東の孤児院の方ですね。何の用でしょうか?」
背後からの確認の声を聴いた2人が振り返ると、そこにはダリウスが立っていた。
「ダリウスさん、丁度良かった。実は東の孤児院で問題がありまして・・・。」
「問題ですか?まだ院長が到着してない事でしょうか?」
「はぁ?(へ?)」
そしてダリウスの返答に混乱した。
「違うのですか?」
「何を言ってるんですか!?前院長が死去した1月後に赴任してきましたよ!」
「何を言っているのです?まだ到着していませんよ?」
「ダリウスさん、申し訳無いのですがその根拠は?」
「何故って・・・赴任に際しては統括地の長に引き継ぎの挨拶に来ますよね?それが未だに無いのですから、まだ到着して無いと判断いたしますが・・・、どうなっているのです?」
孤児院の新院長赴任に際しては、引き継ぎの為に一度その地の教会員の長に話しに来なければならない。
前院長からの報告やその時に居る子供に職員の内情、出せる予算の報告等の連絡事項がある為だ。
「マグヌス医院長の性格上、朝の連絡会で確実にそういう報告があります。それが無いのですから、まだ赴任して無いでしょう。なのに何故、赴任されているのですか?」
「・・・おい、どう言う事だ!?」
「シオンの言っていた懸念が当たりましたね。」
「何を「すみません、転写の魔法に使える紙は在りますか?」」
「急いでくれ!犯人に逃げられる!」
切迫した2人の懇願にダリウスはきな臭い物を感じた。
「・・・医院長室に行きましょう。そこで何が在ったか話を聞きます。」
「「有難う御座います!」」
ダリウスを先頭に治療院の中に入った2人は、真っすぐに医院長室に着いき、ノックも無しに入室した。
「マグヌス様、緊急事態です!今すぐ転写に使える紙を!」
「落ち着きなさい、何が・・・おや?東の孤児院の方、どの様な用で?」
「その緊急事態に関係があります。」
「解りました。これを。」
すぐさま差し出された紙に転写の魔法をするマグノリアを後目にフリージアが説明を始めた。
「医院長、東区の孤児院に院長が来た報告は有りましたか?」
「無いですね。あの真面目な人がこんなに遅れて尚且つ、連絡も寄こさないのはおかしいです。」
「来る予定の方の名前は?」
「マーガレット=ディメテアと言います。御年50歳ですね。ダリウスさんは世話になりましたね。」
「はい、今でも顔は覚えております。」
「では、この絵を見てください。」
マグノリアから差し出された紙を受け取ったマグヌスは困惑した顔をした。
「誰です、これは?」
「それが私達が知っているマーガレット=ディメテアです。数日前まで当孤児院の院長をしていました。現在、行方不明です。」
「あり得ません!彼女はこんな顔ではありません!」
「マグヌス様、お貸しください。・・・誰だこれは!?あの人は50歳だ!この女性は高く見積もっても40代位じゃないか!!?」
「その女性は前院長が死去した後、1月経ってから孤児院に来ました。各種書類は完璧に揃っていました。」
その報告を聞いたマグヌスは状況を理解した。
「・・・殺した後に入れ替わったんですね。書類が発行されてからなら、書類の必要部分だけを変えればいいのですから。」
「この女は現在行方不明なんだな。」
「はい、行方不明になった原因は恐らく、2日前に起きた南区での爆破事件に関与しているからです。」
「・・・ダリウスさん、この事を警邏隊に。私は教国に緊急通信を行い、順路周辺捜索をお願いします。死体が挙がれば他国でも指名手配に掛けられます。」
「承知しました。2人共、一緒に「申し訳ありません。」ませ・・・何?」
「先程の事件に巻き込まれたのが同僚の1人です。現在、予断を許しません。」
「そんな方の報告は・・・居ますね、彼が。」
マグヌスは微笑んで言葉を紡いだが、ダリウスは苦々しそうにしていた。
「報告位入れろよ、馬鹿者が。」
そしてダリウスはそう小さく呟いた。
「その為に暇が出来たら赴いています。」
「解りました。暇が有ればその方に付いて居てください。それと、これは仮の責任者としてですが、彼の治療には全面協力をしてください。私が許可します。その代わり、治療内容の報告をお願いします。」
「マグヌス様、一応は異端者です。我々は基本、知らぬ存ぜぬで通しますよ。」
「仕方ありませんね。この4人だけの秘密と言う事で、如何か。」
「「「解りました。(承知しました。)」」」
「では行動を。神の御加護を。」
そして各々が動き始めた。
切りが良いのでここで切ります。
本当は裏で取引している設定にしたかったのですが先を見据えて別人にしました。
緊急通信って何?
相互間通信のできる魔道具。
2つの宝珠があり、そこから声だけがいきわたるだけです。
ようは距離感無視の糸電話。