5-20
「アンナ!!!」
「大丈夫か!!?」
「これ見て・・・大丈夫だったら・・・目がおかしい。」
ルインが来るのが最初だと思っていたアンナは、マグノリアとフリージアが一緒に入って来た事に驚いた。
そして2人も全身包帯状態で横になっているアンナを見て、その時の惨状を理解した。
「怪我の説明自体は受けてたんだが、此処までひどいとはな・・・。」
「生きている事に奇跡を感じないといけませんね。」
「そうだね。・・・何で2人は・・・此処に居るの?」
その質問を聞いた2人は『何を言ってるんだと?』言う顔をしながら話し始めた。
「同僚がとんでもない怪我を負ったのに、見舞いに来ないとか無いだろ。」
「後、ルインさんが『アンナが起きたら話したい事がある』とかで頻繁に来るようにしてたんですよ。」
「あ~・・・さっきも言ってたね・・・それ。」
「あの人の性格上、禄でも無い話じゃ無いんですが、もったいぶられているのが嫌なんですよね。」
「そうなのか?私はこの3日付き合っただけだから、どういう人なのか分からなくてな。」
「怖ろしい腕を持った治療師です。腕前は恐らく、この国1番だと思います。」
「・・・何でそんなんが治療院に居ないんだよ?」
「治療の為には教会の戒律など御構い無しに破る人なんです。そのせいで異端認定を受けてますね。国王陛下を救った恩赦で此処で治療行為をしていますが、治療に掛ける執念は相当だと思います。」
「生きてられるのに『死ね』って言うのが嫌なだけだ。だから俺は規則破ってでも患者を生かす方向にする。」
ルインの話をしていると、そのルインが1人の少女と共に入って来た。
「アンナさん、紹介するよ。本来はスノームーンて言う娼館の住み込みで手伝いをやってるメイリンだ。」
「メイリン=スリザス、よろしく。」
「今回の事で必要になるスキル全部持ってるのがこの子ってだけだから、其処ら辺は考慮してくれ。」
「別に・・・気にしないですよ。」
「じゃあ、ちょっと嫌な話をしようか。魔法契約書に代筆許可を出してほしい。」
その言葉を聞いた3人はそれぞれの疑問があった。
それを最初に口にしたのはアンナだった。
「何で・・・そんなのを?」
「その疑問に答える為に・・・フリージアさん、これ読んで。」
フリージアに差し出したのは羊皮紙だった。恐らく魔道契約書であろうそれを読み始めたフリージアはアンナより状況を理解していた為、考え始めた。
「状況を説明すると現在、外では大規模な犯人探しが継続中だ。何せ街中でとんでもない魔法がぶっ放されたからな、それの犯人を見つける為に各区商工業組合員、全警邏隊、王都在中全騎士隊の3勢力合同調査が行われてる。」
「・・・へ?」
「ちょっと待ってください!そんなにですか!?」
「これでも少ない方だぞ。此処に組合員じゃ無い市民と裏組織が介入する可能性まであるんだからな。」
「警邏隊は知ってましたが、なぜ騎士隊まで・・・。」
「アンナさん達に使用された魔法は豪爆破と火勺砲の2つだ。火勺砲が先に到達して焼かれて、豪爆破の爆発で川に吹っ飛んだ。その衝撃でもう一人は顔に瓦礫が当たって死亡、アンナさんは生きてはいるが、救助が間に合わなければ死んでただろうね。」
「火勺砲に豪爆破!?何を考えてそんな魔法を!!!」
「死体が残らない方が良かったんだろう。犯人の計算外は、アンナさんの防護礼装がとんでもない事だな。」
「何で平然としてるんですか!?この区が火の海か瓦礫の山に変わってたかもしれないんですよ!!」
「だろうな。火勺砲は対ドラゴン魔法の1つだし、豪爆破は最小でも半径10mを爆破する魔法だ。俺も心中穏やかじゃないよ。ただ、此処で怒りをぶつけても仕方ないから、あっけらかんと喋ってるんだよ。」
「それは・・・そうですが・・・。」
「で、まずこれに怒ったのが南区商工業組合。何せ自分達の膝元で、トンデモ魔法が放たれたんだからな。何らかの形で犯人を吊るし上げるまでは止まらんだろ。」
ルイン自身も、まさかケイが静かにキレてるとは思わなかったのだから、これは止まらないと思い知ったのだった。
「それだと・・・他の区の商工業組合が・・・動いてるのは何で?」
「事件から3日経ってるからな、犯人が別の区に居るかもで大捜索されてるのさ。自分達の所で被害が出たらヤバいだろ?」
「確かに。」
「警邏隊は別に良いな?あそこは事件調査もしてるから、事件が起きれば駆けつける。さて、何でこれで騎士隊が動いてるかと言うと、偶々お忍びで南区に居た陛下が事件現場に1番乗り、事件現場の酷さから在中騎士隊を動かしてのローラー調査だ。」
「うわぁ・・・逆にそれでも犯人が捕まらないんだ・・・。」
「そうなんだよ、不思議だな。だから近々裏組織に調査が入る可能性がある。そうなれば自分達の潔白の為に、裏組織も調査に乗り出すだろうね。」
「それが何で、犯人逮捕までこの家から出ない事に繋がるんだ?」
魔道契約書を読み終わったフリージアが、契約書の中での疑問点に説明を求めた。
「運が悪い事に、事件直後に此処に怪我人が担ぎ込まれたのを誰かが洩らしてな。南区では俺の治療の腕は知れ渡ってる。だから『もしかして』って言うので此処に捜査の手が伸びてるんだよ。」
「・・・まさかアンナが?」
「スケープゴートにされる可能性がある。」
「何で!?」
「これだけ探して犯人が見つかりませんは許されないからな。誰かを挙げなきゃ各勢力が落ち着かんのさ。実際、商工業組合の現会長と陛下が調査の為にここに来て、アンナさんの怪我の状態を話したら『起きたら話させろ』の一点張りだった。」
「それは犯人情報の確認なのでは?」
「俺もそう思うんだが、会長の目がな・・・。あれは無実の罪を擦り付けようとしてる。素人捜査の弊害だな。」
「最悪・・・だ。」
「そんな訳で、未だに意識不明と言う事にしておけば捜査が此処には及ばないし、スケープゴートにもできない。一石二鳥だから、家の部分・・・2階から出ないようにしてほしいのさ。ただ俺も仕事がある身だし男だから、女性且つ医療にも詳しいメイリンに来てもらってお世話をお願いするのさ。」
「メイリンちゃんって、ルインさん並みに出来るんですか?」
「そんなの無理。ただ、怪我人のお世話ならできるし、包帯変えて軟膏を塗る位の事は出来る。」
「師匠として言うが、上級治療師じみた事まではできるぞ。俺色に染まってるから、一般受けはしないがな。・・・メイリン、目標を高く設定し過ぎだ。俺の代わりになろうとするな。」
「ん、解った。」
「本当に判ってんだか・・・。まあ、不自由にさせる代わりに諸々の諸経費はタダ、ついでに皮膚移植もやって、完治させる。」
「皮膚移植?何ですか、それ?」
「ああ、今アンナさんの包帯の下ってかなり危ない状態なんだよ。皮膚が殆ど壊死して、このまま行けば皮膚関連の合併症が起きる。だからその部分を切除して、新しい皮膚に取り換える。それが皮膚移植。ついでに毛根の移植もやろう。結構、燃え散らかしてるからな。」
「真っ向から教義違反だな、オイ!」
フリージアが袖を振ってメリケンサックを取り出した。
それを素早く嵌めると、ルインに拳を突き出した。
「・・・殺気が籠って無いぞ?寸止めする気満々だったろ。」
只、その拳は顔の手前、数ミリで止まっていた。
「一応教会員だからな、教義違反者は叩きのめす。だが、状況が判ってるからな。アンナを死なせたらタダじゃおかないと言う意志みたいなもんさ。」
「承知した。その言葉と行動を深く受け止めよう。」
「マグノリア、何か言う事は?」
「無いですね。後はアンナの意思だけです。」
そう言われたアンナだが、逡巡する気は無かった。
「受けるよ。・・・生きてたいもん。」
「有難う、じゃあ、契約書に魔力を込めて、代筆者の名前を言って。」
「ああ、代筆者なのですが私かフリージアにしてください。院長はちょっと・・・」
「何かあるのか?」
「現在、一番の容疑者にして行方不明です。」
「・・・はぁ!?」
「まだ捜査線上には上がって無いがな。それについても話しておこう。」
そしてマグノリア達が、アンナが起きるまでの孤児院の話を始めた。
切りが良いのでここで切ります。
捜査員全員が特〇の拓のキレ顔みたいになってます。(そりゃ、街中でこんなもんが打たれたらね)
街中での使用禁止魔法について
基本的には
1,威力があり過ぎる
2,威力は無いが効果範囲が広すぎる
3,両方の特性を持つ
魔法が主にそれです。
火勺砲は1、豪爆破は3です(2に該当するのは現状出てきていませんが広範囲煙幕魔法とかです。)