5-18
「ではアンナ、よろしくお願いします。」
「はい、解りました。」
数々の逃走シュミレーションを重ねる内に件の日になった。
机上の空論だろうと数をこなせば自信になったようで、シオンの顔はやる気に満ちていた。
(ぜってー生き残ってやる!!!)
無駄にやる気のある顔になったせいか、見送りに来た子供達が不思議がっている事にも気付かない程だった。
そうして歩き出して孤児院が見えなくなった段階でアンナが話しかけてきた。
「シオン~、気合入りすぎ~。もっと緩く行こ~。」
「いや、いけねえよ!何でそんな緩いんだよ!こっちは死ぬ可能性が在るんだぞ!」
「それは私も同じ~。でも~、ここまで来たら全部同じ~。」
「それはそうだけど・・・。」
「それに~、緊張ばっかりだと~、いざって時に動けないよ~。だから~、気を抜くのも大事~。」
「・・・解った。少しだけ気を抜くよ。」
「それで良いよ~。じゃあ~、想定の話をしようか~。」
そう言って何時も歩くよりゆっくりな速度になったアンナは後ろを歩くシオンに向き直った。
「危ないな、それ。」
「大丈夫~、結構頻繁に探知の魔法を掛けてるから~。」
「礼装使う為の魔力はもつのか?」
「これ殆ど使い捨てだから~、最初っから入ってる~。」
「なら良いけど・・・それで、どうするんだ?」
「そうだね~、まず引き渡し場所が南区の一角なんだけど~、その場所って路地なんだよね~。」
「もう怪しさ全快。」
「そうだね~、だけど近くに生活用水の川が流れてるから~、攻撃されたら其処に飛び込む~。」
「解った。」
「攫われそうになったらでもそれかな~。で~、問題は私が離れてからだね~。」
「その場合は?」
「馬車の場合だったら~、思いっきり暴れればいいかな~。身体強化の魔法は習ったよね~?」
「かなりの詰込みだったけど一応、お墨付きは貰った。」
「マグノリアとフリージアに感謝~。あの2人のお墨付きなら~、そこら辺の大人なんかのせるよ~。」
「そうなのか?なんか2人に手も足も出なかったけど。」
「仮にも教会騎士団に入れる2人だよ~。初心者がそれに勝とうなんて言うのはお門違いじゃないかな~。」
「確かに。」
なお、特訓の内容は魔法を覚えさせたら、ひたすら身体強化を掛けながら2人の攻撃を避けるだけであった。
攻撃よりも回避に特化させるのが今回の逃げ道と悟った2人は、とにかく躱し難い攻撃をひたすらに浴びせ続けるスパルタ特訓であった。
「特訓の御かげで久しぶりに危機感知が上手くなったから多分、危険を感じたら逃げれると思う。」
「過信は禁物だよ~。でも自信は持っても良いよ~。」
「・・・有難う。心配してくれる人がいるって、何か良いな。」
「何~?照れてるの~?可愛い~。」
「五月蝿い!それより集中しようよ。もうすぐ目的地だろ。」
「そうだね~。・・・今の所先方さんは着いてないね~。」
「集合時間って何時だっけ?」
「もうすぐだよ~。」
「・・・逃げる準備だけしとくか。」
「それが良い「【豪爆破】」「【火勺砲】」」
その攻撃は唐突だった。
路地の奥から殺傷性の高い魔法が飛んで来たのだった。
幾ら警戒していたとは言え2人の探知射程外から、街中での使用禁止の魔法と言う反則に対応できるはずは無かった。
2人は魔法をくらい、川に投げ出された。
(何が起き・・・シオン・・・)
アンナは薄れゆく意識の中、目の前に居たシオンを何とか抱きしめた。
そしてそのまま意識を失った。
切りが良いのでここで切ります。
工業地帯でなんて魔法つかうんだ~。(お前の考えだろ)
使用魔法説明
豪爆破・・・攻撃魔法火属性で設定した地点を爆破する。
火勺砲・・・攻撃魔法火属性で高熱の炎を放つ。