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強欲の器  作者: 夜鳥
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 俺はアントキアの街を後にし、東に向かって歩き出した。1層はチュートリアルも兼ねているため、モンスターのレベルはそれほど高くなく、攻略しやすい。ゲームの知識を頼りにすれば、例え装備が揃っていなくてもゴブリンを倒すことは出来るはずだ。

 森の入口に到着すると、青いウィンドウが表示される。


 『迷いの森にようこそ。ここには沢山のモンスターがいるので、気を付けて進んでください。』


 辺りを見渡しながら慎重に進む。森は薄暗く、静かな雰囲気が漂っている。途中で丁度良い長さの木の棒(ランクF)を拾った。しばらく進むと、茂みの中から小さな音が聞こえてきた。


「…いるな。」


 俺は息を潜めて茂みに近づき、そっと覗き込んだ。そこには小さな緑色のゴブリンが1匹、何かをついばんでいる。ゴブリンに気づかれないように、じりじりと背後に近づく。ゴブリンとの距離は、せいぜい2、3mといったところか。


「よし、行くぞ。」


 俺は心の中で気合いを入れ、手にした木の棒をしっかりと握った。初めての戦闘だが、ここで怯んでいる場合じゃない。まずは試しに、特殊アビリティである『強欲の器【サングリアル】:ランクF』を発動させてみる。

 対象となるゴブリンをしっかりと見て、能力発動を念じるが、次の瞬間青いウィンドウがパッと表示された。


『能力発動失敗! 自分より相手のレベルが高いため、能力発動に失敗しました。対象者:ゴブリン(Lv.2)』


 やはりLv.1の状態では、特殊アビリティの発動は難しいか。そうすると、特殊アビリティには頼らずにゴブリンを倒さなければいけない。一瞬、ゴブリンとの戦いに負ければ死ぬかもしれないという恐怖が湧き上がるが、深呼吸をすることで心を落ち着かせる。大丈夫。これまでプレイしてきた『バベルの塔』の感覚を思い出せ。ゴブリンは数え切れないほど倒してきた。これまでのゲームの経験を活かせば、ゴブリン1匹を倒すことは問題ないはずだ。

 ゲームでは確か、ゴブリンの弱点は眉間だった。そこを集中的に狙えば、例えLv.1のステータスでも勝機はあるはずだ。ゆっくりと近づき、一気に飛びかかる。


「はあっ!」


 眉間目掛けて木の棒を振り下ろし、ゴブリンを攻撃する。ゴブリンは驚きの表情を浮かべ、サッとよけて反撃に出るが、俺はその前にもう一度攻撃を加えた。俺の攻撃は丁度ゴブリンの肩にあたり、ゴブリンは一瞬よろけたが、俺の姿を認識すると、その黄色くギョロついた目で俺を睨みつけてきた。


「グルルルルッ!!」

「来い!」


 俺は剣を構え直し、ゴブリンに向かって再び攻撃を仕掛けた。するとゴブリンも負けじと鋭い爪で俺の攻撃に反撃してくる。咄嗟に木の棒で受け止めると、予想以上の衝撃があった。


「くぅッ!」


 ゴブリンの攻撃にじんじんと手が痺れる。Lv.1のステータスだと、こんなにも相手の攻撃を重く感じるのか。攻撃を受けるのはあまり得策ではない。続いて繰り出されたゴブリンの攻撃を咄嗟に紙一重でかわした。だがゴブリンの爪の先が、俺の頬を切り裂く。その痛みに思わず顔を顰める。

 ゴブリンは鋭い爪を振りかざしてくるが、その動きは予測できる。ゲームの経験が俺の動きを支えてくれる。

 ゴブリンの爪が俺の前をかすめる。素早く身を引いて、再び木の棒を振り下ろす。今度はゴブリンの顔に当たり、奴は大きくのけぞる。


「よし、今だ!」


 ゴブリンがバランスを崩した瞬間、俺は全力で眉間に狙いを定めて突きを放った。木の棒がゴブリンの頭に深く突き刺さり、奴はその場で崩れ落ちた。


「やった…!」


 息を整えながら、ゴブリンの死体を見下ろす。初めての実戦で勝利を収めたことに、喜びと安堵が広がる。

 倒れたゴブリンは光の粒となって消える。すると俺の目の前にパッと青いウィンドウが現れた。


『おめでとうございます! Lv.2になりました。』


【ステータス】 Lv.2

 HP 128

 STR 30

 DEF 23

 INT 12

 MND 15

 MP 18


・特殊アビリティ

 強欲の器【サングリアル】:ランクF

 相手からランダムでスキルを1個奪う。奪ったスキルは3個まで保有できる。自分より相手のステータスが高い場合、100%の確率でアビリティ発動に失敗する。一度スキルを奪った相手からは、再度スキルを奪うことはできない。特殊アビリティや固有スキルは奪うことはできない。


・スキル

 襲撃:(New!)ランクF

 物理攻撃時、確率で相手のDEFを10%低下させて攻撃する。


・装備

 どこにでもある服:ランクF

 奇妙な指輪:ランクF

 丁度良い長さの棒:ランクF


・称号

 強欲の烙印(全てを手に入れようとする最も強欲な者に与えられる称号):スキル習得率・熟練度が上がる



 今回の戦闘で運よくスキル「襲撃」を獲得することができた。これは相手のDEFを低下して攻撃できることができるし、かなり良いスキルだ。


 するとステータス画面に重なるように、パッと青いウィンドウが表示された。


『強欲の器【サングリアル】が発動し、相手からスキル「激怒」を奪いました。このスキルを装備しますか?』


 スキル「激怒」の内容をタップして確認すると、一定時間STRを10%アップすることができるスキルだった。迷わずスキル装備を選択する。

 さらにステータス画面で所持金を確認すると、「500ゴールド」と書いてある。ゴブリン1匹でこの報酬か…。ギルドでクエストを受注していれば、この倍以上報酬が出るはずだが、仕方がない。

 クエストウィンドウを確認する。


『1層クリア条件:ゴブリンの討伐(1/15)』


「あと14匹。」


 先は長いが、この調子ならクリアできるはずだ。俺は周囲を警戒しながら、次のゴブリンを探し始めた。戦いの疲労を感じつつも、一歩一歩周囲を警戒して前に進む。

 森の奥からかすかに聞こえるゴブリンの声を頼りに、俺は再び木の棒を握り直し、足を進めた。


 森の中は静かで、時折鳥のさえずりが聞こえる。慎重に進むうちに、再びゴブリンの声が聞こえてきた。草むらをかき分けて進むと、3体のゴブリンが一カ所に集まっているのが見えた。俺は木の陰に隠れながら、どう攻撃するかを考えた。特殊アビリティである強欲の器を発動させてもいいが、あれは確率でスキルを奪うものだ。それであれば、一匹ずつ仕留めた方が良い。


「一匹ずつおびき寄せて、確実に仕留めるしかないな…」


 意を決して、俺はゴブリンたちに向かって小石を投げた。石がゴブリンの近くに落ちると、そのうちの一匹が興味を示してこちらに近づいてくる。俺は息を潜め、ゴブリンが完全に視界に入った瞬間に飛び出し、スキル「襲撃」、「憤怒」を発動し、眉間を狙って木の棒を突き刺した。


「グアアッ!」


 棒が深く刺さり、ゴブリンはその場に倒れた。気を引き締め、次のゴブリンをおびき寄せるために、再び小石を投げる。先ほどと同じように2体目のゴブリンを倒したが、3体目のゴブリンが他のゴブリンの死体に気づき、警戒心を持ってこちらを睨んできた。


「まずい…。」


 俺は慎重に距離を取りつつ、次の一手を考えた。木の棒をしっかりと握りしめ、ゴブリンの動きを注視する。ゴブリンは低く唸り声を上げながら、こちらに向かってくる。


「来い…。」


 ゴブリンが突進してくるのを見計らい、俺は素早く横に避け、木の棒をゴブリンの脇腹に突き刺すと、ゴブリンはうめき声を上げて倒れた。倒れたところを狙い、急所である眉間に棒を刺す。するとゴブリンは苦しげな声を上げた後、光の粒となって消えた。


「これで4匹倒したから、後は11匹か…。」


 俺は大きく息をつき、立ち上がる。地面に落ちていた木の棒を拾い上げると、度重なる戦闘による損傷で木の棒は真ん中から真っ二つに割れた。

 どうやら今日はここまでのようだ。ゴブリンを倒したことで幾らかゴールドも入手できたため、武器を調達してから来るのが良いだろう。

 俺は戦闘による疲労で足をふらつかせながら、何とか街まで戻ったのだった。

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