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強欲の器  作者: 夜鳥
3/5

3

 目を覚ますと、俺は草原に寝転んでいた。暖かな日差しが降り注ぐ中、一面青々とした草に覆われている。息を吸い込むと、瑞々しい草の香りが胸いっぱいに広がった。顔にあたるそよ風も心地良い。


「ここは…?」


 近くにあった草を試しに手にとってみると、それは今まで手にしたことのある草の触感と遜色なかった。VRゲームの世界にしては、あまりにもリアルだ。

 だが俺が着ていた服は先ほどまで着ていた服とは異なり、薄茶色の質素な冒険服だった。着心地はあまり良くない。

 すると突然、目の前に青いウィンドウが現れた。


『偉大なる冒険者よ。バベルの塔にようこそ。大いなる栄光を手にするため、100層まで到達してください。

 1層クリア条件:ゴブリンの討伐(0/15)』


「やっぱりここは、バベルの塔の世界なのか…?」


 どうやらあの都市伝説は本当だったらしく、ワクワクした気持ちになる。試しにゲームと同じように、ステータスを表示させてみる。


「ステータス、オープン!」


 すると、目の前に青いウィンドウが現れた。


【ステータス】 Lv.1

 HP 85

 STR 20

 DEF 15

 INT 8

 MND 10

 MP 12


・特殊アビリティ

 強欲の器【サングリアル】:ランクF

 相手からランダムでスキルを1個奪う。奪ったスキルは3個まで保有できる。自分より相手のレベルが高い場合、100%の確率でアビリティ発動に失敗する。一度スキルを奪った相手からは、再度スキルを奪うことはできない。特殊アビリティや固有スキルは奪うことはできない。


・スキル

 なし


・装備

 どこにでもある服:ランクF

 奇妙な指輪:ランクF


・称号

 強欲の烙印(全てを手に入れようとする最も強欲な者に与えられる称号):スキル習得率・熟練度が上がる



 ステータス画面には、現在の俺の能力値が記載されていた。HPは体力であり、この数値がゼロになるとゲームオーバーとなる。STRは攻撃力、DEFは防御力を意味しており、STRが高いほど物理攻撃力が高く、DEFが高ければ自分が受けるダメージを軽減することができる。

 またINTは知能、MNDは精神力を意味しており、INTが高ければ魔法攻撃力が高く、MNDが高いほど回復魔法や補助魔法の威力が大きくなる。そしてMPは魔法を使用するための魔力だ。

 今はまだLv.1のため初期ステータスは低いが、Lv.が上がればステータスも上がっていく。


 そしてバベルの塔の特徴と言っていい特殊アビリティには、今までに見たことのないアビリティの記載があった。


「強欲の器…?」


 これは相手からスキルを奪うアビリティだ。相手の特殊アビリティや、特殊アビリティから派生する固有スキルは奪う対象とはならないが、スキルの数が増える分、かなり破格のアビリティである。また特殊アビリティやスキル、装備の熟練度としてランクFからランクSSまで等級があり、初期段階ではランクFからのスタートだが、特殊アビリティやスキル、装備を使えば使うほど経験値が溜まり、熟練度が上がる仕組みである。

 この特殊アビリティがあれば、かなり有利にゲームをスタートできるはずだ。

 またステータス画面に表示されている『奇妙な指輪』というアイテムが気になった。


「これのことか…?」


 自分の右手にはめた指輪を観察してみる。母から貰った指輪だが、この世界で有効なアイテムだとは思わなかった。しかし現時点で何か特別な能力があるわけでもなく、ただの変哲もない指輪だった。


「それにこの称号も…。」


 『強欲の烙印』なんて特殊な称号、俺がプレイしていたVRゲーム『バベルの塔』には存在しなかった。こんな破格な称号があれば、攻略サイトに必ず情報が出るはず。


 はやる気持ちを抑えて、深呼吸する。今すぐ自分の能力を試してみたいという気持ちが湧いてくるが、今は装備も揃っていないし、情報収集が先だ。

 ゲームの世界と同じなら、確か近くに『はじまりの街』があるはずだ。周囲を観察すると、遠くに建物が見える。俺はそこに向かって歩き出した。




 街の入り口に着くと、青いウィンドウがパッと表示される。


『はじまりの街、アントキアにようこそ。』


 街の名前はアントキアというのか。俺がやっていた『バベルの塔』と同じだ。


「ぉおお!! 凄いリアル!!」


 俺はキョロキョロと辺りを見回す。街並みは中世のヨーロッパに似ているが、舗装された石造りの道の上では露店などが見える。また歩いている人もそれぞれ髪の色や目の色が異なり、赤や青、緑といった人もいた。

 ゆっくりと観光したい気持ちもあるが、まずはギルドで冒険者の登録をするのが先だ。ギルドで冒険者の登録をしておけば、お金を稼ぐクエストも受けられるし、情報なども集まりやすい。

ゲームの記憶を頼りに10分ほど歩くと、大きなレンガ造りの建物にたどり着いた。この辺りでは一番大きな建物だ。建物の上には剣と杖が交差した絵が描かれた赤い旗がはためている。

 大きな木製の扉をくぐり抜けてなかに入ると、そこには多くの冒険者がいた。右側がギルドの受付で壁際にはクエスト掲示板が置かれている。そして左側は酒場があり、クエストを終えた冒険者たちで賑わっていた。俺が中に入ると、何人かは俺のことをチラリと見たが、気にすることなく受付に向かう。


「すみません。ここがギルドですか?出来れば冒険者の登録をしたいんですけど。」


 受付の女性の一人に話しかけると、彼女はチラリと俺の顔を見て、ニッコリと笑った。


「こんにちは。もしかしてギルドをご利用するのは初めてですか?」

「あ、はい。そうです。」

「かしこまりました。それではギルドについてご説明しますね。」

「お願いします。」

「まず私たちギルドは、危険な魔物の討伐から珍しい薬草の採取までありとあらゆるクエストを受注しており、冒険者の皆様をサポートしております。冒険者のランクはそれぞれFからSSまで設定されており、それぞれのランクに合ったクエストを受注することができます。クエストは難易度に応じて設定されており、クエストをクリアすれば報酬が支払われます。また他の冒険者と一緒にパーティーを組んで、クエストに挑戦することも可能ですので、その際はクエスト受注時にパーティーに参加する冒険者を登録してください。ここまでで何かご質問はございますか?」

「大丈夫です。」


 俺がプレイしていたゲームと同じ内容だ。最初にギルドに加入しておけば、情報も入りやすいし、後々ゲームクリアも楽になる。今加入しない手はない。


「それでは、こちらの書類にお名前と基本情報を記入してください。また冒険者登録には小額の登録料が必要ですが、初回クエストの報酬で補填できる額なのでご安心ください。」


 そうして受付の女性から渡された紙を記入しようとした時だった。隣で受付をしていた中年の冒険者たちの会話が耳に入った。


「なぁなぁ、七大罪の烙印者を捕まえれば、賞金が出るって本当か?」

「ああ、どうやら本当らしいぜ。そいつらを教会に引き渡せば、一人につき1億ゴールドの賞金は貰えるって話だぜ。」

「1億ッ!? そんな大金が貰えるのか!?」

「ああ、どうやらバベルの塔の崩壊を目論んで、教会に盾突く危険人物らしい。この前75層にある教会本拠地の襲撃事件も、そいつらが裏で糸を引いているらしいぜ。七聖人様たちもそいつらを探しているみたいだが、まだ見つかっていないようだ。」

「なるほどな…。ちなみに今時点で何か目撃情報はあるのか?」

「そうだな。今聞いている情報としては、『傲慢』、『色欲』、『憤怒』が動いているらしいが、そいつらの人相までは分からないそうだ。」

「そうか…。だとすると、そいつらを捕まえるのは難しそうだな。」

「まぁな。だが、そいつらの特徴として一番分かりやすいのは、…」


「…あの、何か分からない所でもありましたか?」


 彼らの会話に聞き耳をたてて、自分の名前以外書いていなかった俺に対して、受付の女性が心配そうに話しかけてきた。


「あっ、いえ。すみません。ボーっとしちゃって。」

「いえいえ。えっと、お名前は『マモニール』さんと言うんですね。そしたら基本情報にマモニールさんの特殊アビリティをご記入ください。今後のクエスト受注の際に、参考にしますから。」

「…わかりました。」


 ここで正直に特殊アビリティを記載すべきか悩む。先ほど聞いた冒険者たちの会話内容も気になるし、何より『教会』というゲームになかった設定に、どうも引っ掛かりを覚える。


「……あの、すみません。ギルドと教会って何か関係があるんですか?」

「あぁ、教会ですね。」


 受付の女性は、どのように話すか思案気な顔をして、口を開いた。


「『バベルの塔』のギルドは、教会によって全て管理されています。教会は『バベルの塔』を創り出した創世神アステルの名のもと、バベルの塔の人々を導く役割をしています。そして創世神アステルの使徒として七聖人様がおり、人々を危険から守ってくれているのです。」

「七聖人様ですか…?」

「はい。先ほど冒険者ランクとしてFからSSまであることをご説明しましたが、七聖人様はそれよりも遥かに上をいく存在となります。『バベルの塔』には様々な危険な魔物や犯罪者がおりますが、私たちがこうして平和に暮らしているのも、全ては七聖人様、ひいては教会による力が大きいのです。」


 ギルドが教会によって管理? そんな設定は俺がプレイしていたゲームでは聞いたことがなかった。出来ればもう少し情報が欲しいが、あまり聞きすぎても逆に怪しまれる。


「さて、どうしますか? ギルド加入のお手続きを進めてもよろしいでしょうか?」

「……そうだな。ちょっと急ぎの用を思い出したから、冒険者登録はまた今度にするよ。」

「わかりました。」


 受付から離れ、足早にギルドの出口に向かって歩き出す。途中、クエスト掲示板やギルドの壁に貼り紙が貼ってあるのが見えた。そこには大きな文字で次のように書かれてあった。


『七大罪の烙印者を見つけた者には、1億ゴールドの賞金を渡す』


 七大罪の烙印。きっと俺のステータス画面に表示されていた『強欲の烙印』がそれにあたるのだろう。

 俺は急いでギルドを後にした。

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