98 初めて見るもの
改めて、馬車で町へ乗り込む。
「もうすぐ着くから」
と後ろを振り向いたユキナリは「ブッ」と吹き出した。
目の前のハニトラが、素っ裸だったからだ。
「なんでお前は脱いでんだよ」
「服、邪魔だった」
「着てくれ」
「はぁい」
改めて、馬車で町へ乗り込む。
イリスは、ゆっくりと馬車から一歩を踏み出した。
「ここが……、町なんですね」
「ああ」
表情はわからないけれど、声が震えている。
驚きと喜びと恐怖が混じった声。
とりあえずイリスの隣に並ぼうとすると、ハニトラが割って入ってくる。
「い〜〜〜〜〜!」
と、イリスに向かって威嚇する。お前は犬か。
「ここは私!」
「はいはい。……じゃあそっちは、マルがついててくれるか」
と、ビクビクしているイリスの両側を守るように歩く事にした。
商店街を歩いてみる。
大丈夫そうだな……。
冒険者は、意外といろいろな格好の人種がいるからか、思った以上にイリスが注目される事はない。
むしろ、あからさまに魔族であるマルの方がすれ違いざま怖がるような目を向けられる事が多かった。
とはいえ、イリスが店に入るのは、流石にまだ怖いようだった。
店の外を眺めるだけで、イリスは満足しているようだ。
食事も、外で食べる事にした。
屋台で食事を買う。
トルティーヤだかクレープだかそういう感じの、中に肉やら葉物やらが入っているものだ。
近くの草原に4人で座り込む。
青い空の下。
町の周りで遊んでいていいと放してきたトカゲは、問題ないだろうか。
そんな事を考えながら、草原でゴロゴロと食事をしているハニトラとマルを眺める。
貶し合いにでもなったのか、小突きあっているようだ。
隣に座るイリスが笑う。
「イリスは、食事はいらないのか?」
トルティーヤのようなものを齧りながら尋ねる。
「イリスは、口がありませんから」
なんていう答えを聞いたとき、聞いてはいけないものを聞いてしまったのではと少し思う。
「……エネルギー的なものは?」
「イリスは……空気を食べているそうです」
「空気を?」
「はい。そして、空気の中にあるマナという力を吸収しているそうです」
「マナ?」
「はい。空気中に存在する魔力のようなものです」
そういえば、土の力を使う時、自然の中の土の力も使ってるって言ってたっけ。目には見えないそういうパワー的なのがあるんだろうな、たぶん。
「なるほどな」
なんとなく理解したような気分になる。
「なんとなく、神秘的でいいな」
「そうでしょうか」
「ああ。俺が居た世界ではさ、仙人とかいう人間を超越した存在がいるって言われていて、そいつらは霞を食って生きてるんだと。それと同じようなものを感じるよ」
「面白いお話ですね」
イリスのその言葉の後に、「ふふっ」と聞こえた気がした。
笑った……?
表情が読めない分、自信はないが。
なんだかちょっと、心がほっこりしたんだ。
イリスも楽しく冒険出来そうですね!




