96 気になるひとつの問題は
「問題があるとすれば」
岩ばかりの山の麓。4人と1匹は輪になった。
「この2人の事だが……」
と、新入り1人と1匹を示す。
一応。
一応……だが、万が一、“ハネツキオオトカゲはドラゴンなんですよ”なんてハネツキオオトカゲが話し出すと困るので、”一人“と数えておく。
「マル」
「マルチネスですわ」
「ハネツキオオトカゲは、街中に居ても大丈夫か?」
「ですわ……ね」
マルが少し困った様な顔をする。
「ハネツキオオトカゲを飼う人間なんて、聞いた事がありませんわ。なのでもしかしたら、わたくしと同じ扱いを受けるかもしれませんけどね」
「同じ扱い、という事は、避けられるって事か」
「ええ。まさか、攻撃されるとか捕まる、なんて事にはならないと思いますわ。そこまで珍しい種でもありませんし。頭がいいので有名ですしね」
そこで、マルが一つため息を吐く。
「問題があるとすれば、そこの石のあなた、ですわね」
みんなの視線がイリスに向く。
イリスは沈黙を保ったままだ。まあ、外見上そう見えるだけで、もしかすると内心大慌てなのかもしれないけれど。
「こんなゴーレム……誰も見た事がありませんもの。脅威に思う方も居るでしょうし、捕まえて売ってしまおうとする方も居るでしょうし、」
そこでマルの目が光る。
「……研究したいって方も居るかもしれませんわね」
おいおいおいおい。
研究したいのはお前だろう。
忘れていたがこの犬、物知りなだけある賢者なのだ。
そういう事に興味があってもおかしくないよな。
呆れつつも、確かにそうなのだ。
イリスは全身黒に近いグレーなのだ。
身体も服も、全てが石で出来ている。
このまま街へ出れば、注目の的間違いなしだ。
「服が着られればいいけど……、石のローブが脱げるわけじゃないもんな」
イリスを上から下まで眺める。
「ですね……」
とイリスが小さく答えた。
マルが「ふん」と鼻を鳴らす。
「ローブは買ってくるとして……、顔はどうやって隠すのがいいかしら」
そこで、ハニトラが、
「私、顔描こうか……?」
と割と真剣な顔をした。
冗談……ではなさそうだ。
…………大丈夫なのか?
じゃなくて。
「いくら人間ぽい顔でも、目も口も動かなかったら怖いだろ。やっぱり、仮面で隠すのがいいと思う」
「え〜」
と不満げなハニトラを尻目に、マルが、
「まあ、次の町で明るい色の仮面を探しましょ」
と話をまとめた。
結局、イリスには岩陰で待っててもらい、残りのメンバーで馬車を取りに行った。
流石に少年も、ハネツキオオトカゲを連れてくるとは思わなかったらしく、しばらく言葉を失った。
借金の返済を見守り、もうこの家族に手は出さないと誓わせる。
「父さん、治るといいな」
「うん」
少年が、明るい瞳でユキナリを見上げた。
引き取った馬車は、思った以上にでかかった。
ハネツキオオトカゲに、革でできたロープを取り付ける。
「苦しくないか?」
「キューイ!」
嬉しそうにトカゲが飛び跳ねる。
この大きさなら、イリスが乗っても十分だな。
「じゃ、行くか」
「いつでもまた寄ってよ」
「ああ。じゃあな、少年!」
馬車ゲットですね!




