95 四つ足動物捕まえろ(3)
視線を落とす。
そこで水を美味しそうに飲むのは、小型のハネツキオオトカゲだった。
「えっと…………え……?」
小型なので馬ほどはないけれど、ポニーといえるサイズはありそうだ。
こいつ……捕まえてもいいのか?
しばらく、にらめっこが続く。
「捕まえないんですの?」
と、じっと見ていたマルが言う。
「いや、子供だったら、さすがに攫うようなマネ、できないだろ」
サイズや顔の感じから、なんとなく子供っぽさを感じるのだ。
「確かに、まだ未発達のようですわね」
「お母さんと離れちゃうのはさみしいもんね」
と、ハニトラも同意する。
他の個体を探す為、4人でそこを動いた時だった。
「キューイ?」
と声がした。
「?」
その小さなハネツキオオトカゲのようだ。
「俺達は少し移動するから、お前も家帰れ」
声をかけ、その頭に生えた小さな角を撫でるように触れる。
「キュイ!キュイ!」
騒がしくするので、理解したのかと思いまた歩くと、その個体がついてきた。
「え……?」
振り返ると、真っ直ぐに目が合う。
「お前、俺の旅についてくるか?」
それは自然に出てきた言葉だった。
確かに、素直に同意してくれるヤツが居るならありがたい。
誘拐みたいな事をするつもりはない。
捕まえたとしても、元々説得するつもりではあったのだ。
「キュイ!」
元気よく返事が来る。
「ホントにわかってんのかぁ?」
ユキナリが苦笑すると、
「キュウイ!」
と力強い返事が来た。
「俺達は馬車を引いてくれるヤツを探してる。一緒に来たら、ここに、暫く戻ってこれなくなるんだぞ?それに、俺達、魔女を探してるんだ。危険な目に遭うかもしれない」
「キュゥ……」
とトカゲが気圧されているような声を出す。
これは本当に……わかってるのかもしれないと思わせられる。
「キュ!」
立ち上がったトカゲは、群れの方へ走っていった。
諦めたのか……。
と思った直後。
「ギュイッ!!」
と大きな声がした。
あの小さなハネツキオオトカゲが、大きなハネツキオオトカゲに蹴り飛ばされたのだ。
「おいっ……!」
周りの数匹が気付き、冷たい目で二匹を眺める。
なんだよ、これ……。
小さなハネツキオオトカゲは、立ち上がり、再度大きなハネツキオオトカゲに立ち向かう。
群れから外れているから、旅立っても問題ない、なんて言うつもりなのか?
そんな事を考える。
実際、助けに来るようなトカゲはいないようだ。
けれど。
小さなハネツキオオトカゲは、大きなハネツキオオトカゲに、ただタッチするようなパンチを繰り出すと、ドヤ顔でこちらへ戻ってくる。
そして気付く。
……強い奴に立ち向かえる事を見せようとしてるのか……。
「つよいつよい」
とハニトラがご機嫌で小さなトカゲを迎え入れた。
傷だらけになりながらも「フンッ」と息を吐いた小さなトカゲに、ユキナリはもう笑ってみせるしかなかった。
「一緒に来るか?」
「キューイ!」
そんなわけで、馬役を仲間にできた。
これで馬車で旅に出られる。
まあ、ひとつの問題をクリアすればだが。
仲間になったハネツキオオトカゲくんは、男の子だったりします。




