94 四つ足動物捕まえろ(2)
「全てを守る精霊モスよ。俺に力を貸してくれ……!」
精霊に願うと、ユキナリは、盾を前に構え、ハネツキオオトカゲを見据えた。
「じゃあ、ハニトラは左から回ってくれ」
「うん……!」
小さな個体を前に、捕まえようとする。
二人でそーっと近づき、いよいよというところで、二人でえいやっと飛び掛かる。
岩の上でのんびり動かずにいるトカゲを捕まえるなんてわけない、そう思ったのは早計だった。
トカゲは思った以上に素早く動き、目の前にハニトラの頭が迫る。
「うわっ」
ゴチン。
鈍い音を立てて、二人がぶつかる。
トカゲは涼しい顔をして、また隣の岩の上にじっと止まった。
「いやですわ」
と前に出て来たのはマルだ。
「こういうときは、モノで釣るのがセオリーですわ」
と、ドヤ顔で紐にくくりつけた生肉を置いた。
生肉を結んだ紐の端を持ち、岩陰に隠れる。
こういうの、少しドキドキするな……。
数分後、トカゲが一匹寄って来た。肉の端に食らいつき引っ張る。
「よっしゃ!今ですわ!」
マルが紐を引く。
上手くいくんじゃないかと思えたその瞬間、輪に結んだもう片側から肉を引っ張るトカゲが現れ、紐を結んだあたりで肉は真っ二つ。
残念ながら、マルの持つ紐の端には、生肉のカスがこびりついた縄の輪っかだけが残った。
「ぐ、偶然ですわ……」
なんてマルが言うものだから、それを2回繰り返し、結局そこそこの量の肉が失われた。
「イリスの番ですね」
一人ずつ芸を見せているような気になって来た時、前に出たのはイリスだ。
「こういうのは、手なづけるのが一番に決まってます」
なんて言いながら、かなり堂々と歩いて行く。
一匹のトカゲの前にしゃがみ込み、両手を差し出した。
「ほぉら、こっちだよー」
おお。
保育士さんのようだ。デフォルトでローブを着てるだけある。なかなか聖母感の強いお姉さんなのだ。
けれど、案の定、トカゲは無視だった。
めげずに二匹目、三匹目、とかわいいお姉さんの声を出し続けたが、全てが無視。
結果、岩場の陰で輪になってため息を吐く4人となったのだった。
ハニトラが困った様に眉を寄せた。
「他の動物にしてみる?」
その声に、俺はハネツキオオトカゲの群れに目をやった。
トカゲ達はじっと日向ぼっこをしている。
小さな羽が、時々ピコピコと揺れる。
「いや、他の動物にしても、捕まえる苦労はどうしてもあるものだしな」
ため息を吐きながら、短剣を取り出した。
「全てを包む精霊ウンダよ。俺に力を貸してくれ」
ぽうっと短剣が青く光るのを確認する。
力を込めると、剣先から、水がとぽとぽと流れ出た。
まず自分でぐびぐびと飲む。
あまりとぽとぽやっていると力は抜けてくるのだが、この水がなかなかに美味いのだ。
ハニトラの方に短剣を向けると、水の中に飛び込む様に顔ごと水を飲む。
マルの飲み方はすっかり犬で、口をワウワウしながら飲む。
「イリスは、水は飲めるのか?」
「イリスは、水は飲みません」
「そうか。じゃあ……、」
と短剣の水を止めようとした時だった。
視界の下の方で、何かが水を飲む気配がした。
「え……」
なかなかバランスの取れたパーティーなんじゃないかと思います!




