93 四つ足動物捕まえろ(1)
「四つ足の動物、ですか」
そう問い返すと、イリスは沈黙した。
ユキナリは、心の中で少し笑ってしまう。
イリスは表情がないから、考えているのかどうかわからず、ただ沈黙している状態になってしまう。
それがなんだか微笑ましいというか、ちょっと面白く思ってしまうというか。
「この山を超えたところに、動物の集落がありますよ」
そんな風に言われ、大人しくイリスについていったところ……。
「アンギャァ!」
けたたましい声が、あちらこちらで上がる。
咆哮。咆哮。咆哮。
「へ?」
目の前には、大きな生物が大量に居た。
岩場にじっとしている、大きな……。
「トカゲ……?」
それは、トカゲの群れだった。
岩の上で日向ぼっこをしては、声を掛け合っている。
「ええ、ハネツキオオトカゲです」
「…………ん?」
今、さらっと怪しげな事を言わなかったか?
「ほら、背中に羽が生えているでしょう?」
確かに、よくよく見ればどのトカゲにも、背中に小さな翼が生えている。
それで飛べるのか疑問になるほど、身体を持ち上げられそうもない小さな翼だけれど。
「おいおいおいおいおい、ちょっといいか、イリス」
「はい」
いい声。
表情はわからないが、なんだかドヤ顔が見えるようだ。
「羽が付いてるのは……“ドラゴン”って言わないか?」
そう尋ねると、イリスが沈黙する。
「……いいえ。ドラゴンは喋るじゃないですか」
「コイツらは喋らない……?」
じ……っとハネツキオオトカゲを見る。
すると、金色に光る瞳をやおらこちらに向ける。
目が合った。
…………!?
本当か!?
これって会話理解してないか!?
ブンッ、とマルの方を見ると、苦笑している。……いや、こちらも表情はあまり読めない方なので、分かりづらいが、呆れている事は伝わってくる。
俺は、コッソリとマルに耳打ちするように尋ねた。
「マル。大丈夫なのか?」
マルがさっと目を逸らす。
「おい〜〜〜…………」
マルの白い垂れ耳が、ピコンと跳ねた。
「実は、わたくしもわからないんですの。ハネツキオオトカゲが言葉を発するところを誰も見た事がないのは事実ですし、ドラゴンのような高い場所に巣を作るわけでもないのも事実ですわ。だから……、」
マルがチラリとハネツキオオトカゲの方に目をやる。そして、会話が聞こえないよう声を落とした。
……やっぱり理解されてる前提になってないか?
「……ただのトカゲである可能性もあります」
「可能性って……。それは、ドラゴンである可能性もあるって事だよな……」
怖えよ……。
「けど、いいと思いますわ」
マルが開き直った。
「……本当か?」
「……そういった点に目をつぶれば、賢くて足が速いのは確かですもの」
「マジか……」
「マジですわ」
ハニトラはすでに目をキラキラ輝かせて、
「かっこいい……。どの子とお友達になろうか?」
なんて言っている。
随分乗り気だな、おい。
じっと、ハネツキオオトカゲを見る。
まあ、それもあり、っちゃありなのか……?
「やってみるか」
なんて言ってしまったのは、気の迷いとしか言いようがない。
さて、ヒロインもそろって、新展開ですね!




