88 そして、ゴーレムは目覚める(2)
石だった。
それは確かに石だった。
暗がりの中で確かではないが、どうやら暗い色をしている石だった。
けれど、それは女性だった。
長い髪、唇、瞳、全てが石で出来ている。
よく磨かれたのであろう滑らかな肌。
柔らかそうなローブのように掘られた身体。
ゴーレムというものを知らなければ、なんと美しい銅像なのだろうと思ったはずだ。
なんと美しい顔立ちだろうかと。
なんと美しい布の表現なのだろうと。
けれど、それは確かに機械に繋がれたゴーレムだった。
これが…………、魔法を使えるゴーレム……?
ドキリとする。
大丈夫だ。
線を抜いてしまえば。
線を……。
手に、ゴーレムから伸びた線を掴む。
機械から伸びた、何かを注入するチューブ。
ハニトラとマルが見守る中、手に力を入れ、全ての線を引き抜いた。
動いてはいない機械のチューブからは、ささやかな煙だけが立ち昇る。
動か……ない、な。
繋がっていた線やチューブを全て抜いても、ゴーレムは動かないままだった。
後は念の為、このゴーレムを破壊してしまえば……。
短剣を振り上げたその瞬間、
「ん……」
どこからか、声が聞こえた。
聞いたこともない声。
え?
まさか、ゴーレムが……。
口は動いていない。そんなはずはない。
そう思ってから、いや、ゴーレムは石で出来ているから、表情なんて動かないのかもな、なんて思い直す。
「マスター?」
冷や汗が出る。
確かに今、そのゴーレムから声が聞こえた。
嘘だろ……。
むくり、とゴーレムが動き出す。
俺は、反射的に短剣の手を引き、その土の精霊の力を纏った短剣を構えた。
ハニトラとマルが、両側を固めるように戦う姿勢を取る。
ゴーレムと目が合う。……あの石の瞳と、目が合うという表現が正しいとしたら、だ。
「あら?」
ゴーレムが窺うようにこちらを見た。
「マスター……ではないですね」
疑いようもなく、それはゴーレムの声だった。
見た目通り、美しい女性の声だ。
「あなた達は、誰ですか」
「えっと……」
まさか、ゴーレムが会話できるとは思わなかった。
けれど、これは朗報かもしれなかった。
意思疎通できるという事は、会話で解決できるかも知れないという事だからだ。
前回のゴーレムとは違う。
「マスターの、ご友人ですか?」
けれど、ゴーレムの声は冷たくなる。
もしかしたら表情も変わる場面だったのかもしれないが、俺にはその変化を見つける事は出来なかった。
まあ、それはそうか。
起きたら知らない奴がいたんだもんな。
「あ、いや、この本を偶然見つけてさ、どんな場所なのかと思って、お邪魔してみたんだ」
しどろもどろに適度に本当の事を言う。
けれど、それはあまり、ゴーレムには嬉しくない話だったみたいだ。
「そのノート……。マスターが大切にしていたものですよ?マスターに、会ったのですか?」
言いながら、身体の横に置いてある杖を手に取る。
まずい。
ゴーレムが立ち上がり、こちらに杖を向けた。
「炎!」
新キャラ登場ですね!




