87 そして、ゴーレムは目覚める(1)
暗がりに目が慣れてくる。
すると、壁がぼんやりと光っているのがわかった。
そういえば、最初に入ったダンジョンも壁が光っていたっけ。
この国には、光苔のようなものを壁にまく文化でもあるのだろうか。
しかし、有難いには違いなかった。
松明の用意はないからな。
短剣を取り出す。
「全てを守る精霊モスよ。この旅路を見守ってくれ」
ぽうっと短剣が青く光る。
それを皮切りに、ハニトラとマルも戦闘モードに入る。
遠く、まっすぐに続く狭い洞窟だ。
一見、自然の洞窟のようだが、まっすぐ遠くまで見えるのはやはり異様だと言えた。
まっすぐに。
まるで、山の中心を目指すように。
誰かが居るかもしれないので、そろそろと音を立てずに歩いていく。
途中、足元が人工の床に変わる。
そのツルツルとした石の床に、音が響かないよう、より一層、そろそろと歩く。
ハニトラは、靴を脱ぎ、裸足で歩き始めた。
次第に、壁も天井も、一方ずつ人工の石壁に変わってゆく。
いよいよ、ここが例のゴーレム研究所であるという事は、疑いようがなくなってきてしまった。
歩いていると、徐々に通路は広くなっていった。
どれだけ歩いただろうか。
洞窟の奥、辿り着いたのは、大きな扉の前だった。
高さ3メートルほどあるだろうか。
……やはり、ここにゴーレムを通すつもりなのだ。
一体でも苦労するのに、魔法が使えるというゴーレムが何体も列をなす事を思うと、ゾッとする。
短剣を握る手に、力が込められた。
「ユキナリ」
小さく、ハニトラが呟く。
「私が先に行く」
ハニトラの瞳には、緊張の色が浮かぶ。
「……いや、俺が行くよ」
ハニトラがいくら強いといっても、実際のところ、腕力はそれほどない。
ゴーレムに吹っ飛ばされたらどうなるかわからない。
だったら、盾を持った俺の方がまだいいだろう。
「ユキナリ……」
声を上げたハニトラを制止し、その扉を触る。
「取っ手が……ないな?いや待て。こういう時には、何か周りにヒントが……」
ここまでは一本道。外から入れる仕組みがないわけがない。周りは壁が多い。この中に、またスイッチかそれに準ずるものがあるはず。
そこでユキナリが周りを見渡す。そして、
シャキーン……!
と、扉は真っ二つになった。
「あ……」
ハニトラだ。
まあ、それが手っ取り早いんだけどさ。
この中に閉じ込めておかないといけないゴーレムみたいなのが出てきた時、どうするんだよ。
急いで扉を閉めて、洞窟の中を3人で走るイベントがあるんじゃないのかよ。
少々呆れながらも、まあいいかと思う。
ズズン……、と大きな音が立つ事で、逆に覚悟が決まる。
扉が倒れた事で、砂埃が舞い立つ。
相手は数十年前に生きた人間だ。
怖い事なんてない。
短剣を構え、ズカズカと入る。
スッと、空気が変わった。
あの孤島と似たような大きな部屋が、目の前に現れる。
部屋の中は、薄ぼんやりとしていた。
孤島のように、部屋の中央には、何かの機械があるようだった。
今度は電気を点けず、静かにその機械に近づいて行く。
何か、寝ている。
ああ、やはり、まだ動いていないゴーレムがいる。
大丈夫だ。
電気を入れる前に、線を抜いてしまえば。
そして、俺は見た。
俺たちは見たんだ。
そのゴーレムを。
さて次回、ゴーレム登場です!




