86 山の中の研究所(2)
「この、辺りか…………?」
バキ、バキバキ。
激しい音を立て、木々の中を分け入っていく。
何せ、数十年前の事。
本人ももうこの辺りに居ないのだろう。道があるどころか、人が通った痕跡すらない。
「けど、こっちの方が怪しいですわよ。ここだけ木が生えていますもの。水が通っている証拠ですわ」
鼻が利いているのかいないのか、マルは確信を持ったような顔で奥の方を目指す。
ハニトラは威勢よく木を自分の刃で薙ぎ倒している。
日が傾き、もしかしたらもう研究所などはないのではないかと思い始めた。
もしかしたら、こんな所には作らなかったのかもしれない。
もしかしたら、この場所じゃないのかもしれない。
そんな風に、視界が暗くなっていく山を眺めた。
これは、諦めた方がいいかもしれないと、そう思った。
その時だった。
「…………あれ?」
視界の隅に、違和感があった。
なんだか、山の斜面に映る影が、歪んでいるような気がしたのだ。
「どうしたの?ユキナリ」
振り向いたハニトラの後ろで、ハニトラが刃を入れた木が、ドサッと音を立てて倒れた。
「なんか、あそこ……おかしい気がしてさ」
そう言ってよくよく見るけれど、何がどうおかしいのかわからない。
「…………?」
マルが目を凝らしてじっとそこを見る。
ハニトラが、そちらへスルスルと寄って行くと、
「にゃっ!?」
とハニトラの声がした。
ハニトラの姿が見えなくなったので、慌ててそちらへ向かった。
「ハニトラ……!?」
周りをキョロキョロ見回しても、姿が見えない。
この辺りには木はさほど生えていない。
山側には、崖しか見当たらない……。
崖からは離れているが……まさか、落ちた…………?
恐る恐る崖の方を見る。
「ハ……ハニトラ……」
その時、後ろから、
「ユキナリ!」
と声がかかった。
「うわあ!」
あまりに予想外の事に、飛び上がって驚く。
「ハ、ハニトラ!?」
ぐるりと振り向くと、ハニトラが崖から上半身を出している姿を見て、また飛び上がった。
「ハ!?」
そして思う。
コイツは足を千切るだけでは飽き足らず、下半身丸ごと何処かへ置いてきてしまったのかと。
けれど、流石にそうではなかったらしい。
ハニトラが、手をブンブンと振る。
「ユキナリ!ここ、入口があるよ!」
「え?あ」
そういう事か、と崖にそっと手を触れる。
触れる、と思ったところで、手が、崖に飲み込まれていく。
手には何の感触もない。
「……ほ、本当に、ここ、何にもないんだな」
意を決して向こう側に頭を出すと、洞窟が奥へと続く場所だった。
「!?」
後ろを振り返ると、そこには何もないように外の景色が見える。高性能なマジックミラーみたいだ。
「す……ご……」
ここのゴーレムは魔法が使える、という話を思い出す。
これはもしかして、その魔法なのか……?
周りを見張っていたらしきマルが穴の中へ飛び込んできて、3人は、一つにかたまり、洞窟の奥を眺めるのだった。
さて、研究所の中へレッツゴーです!




