83 足で歩くのは大変なんだって(2)
「おいおい、そこの野郎ども」
短剣を振り回しながら声をかけると、男達が一斉にこちらを振り向いた。
まあ、こちらも見境なくかかっていくほど、どちらが悪人かなんて知ってはいなかった。
「どうしたんだ?そんな子供を寄ってたかって」
「こいつの父ちゃんが借金を返さなくてよぉ」
男は4人か……。
その男どもの一番前にいるのが、こいつらの代表のようだ。
「だから!父ちゃんは病気で、金なんか稼げないって言ってるだろ!」
少年が、威勢よく声を上げた。
「だから俺が稼いだ金を使って欲しいって……」
少年が、握りしめていた金を差し出す。銅貨3枚。
その銅貨を差し出した手を、男が蹴り上げる。
「それっぽっちで!」
銅貨は陽の光を浴びて、キラキラと宙を舞った。
慌てて拾い上げる少年の背中に、男が言い放つ。
「金貨5枚もの借金が、銅貨3枚でどうやって返せるんだよ!」
「けど!」
キッと少年が男を見上げる。
男がまた足を振り上げたところで、横からユキナリが男に蹴りを入れる。
男がズザザッと倒され、男の仲間達がユキナリを取り囲もうかというところで、ハニトラとマルがユキナリの左右につく。
男達がたじろぐ。
その隙に、ユキナリは少年を抱え、走って逃げて行った。
「はぁ……はぁ……」
下を向いた少年が、悔しげに呟く。
「余計な事すんなよ兄ちゃん…………」
少年は下を向いたまま、袖で自分の顔を拭った。
「……って言いたいところだけど、あのままだと俺、何されるかわかんなかったな」
へへっ、と上を向いたそばかすの少年の顔は、清々しかった。
「俺、あれ稼ぐのにあっちの村までたまご運んだんだぜ?」
男達が追ってくるのを諦めたらしいのを確認すると、丘の上を眺めた。
丘の上には、ポツンと一軒の小屋が見えた。
どうやら少年の家は、あそこのようだ。
家の裏手にある草原に、一同は転がる様に座った。
草原には、遠くに山羊の群れが見えた。
少年が言うには、確かにあの男達から借金をしているという話だった。
「うちの父さん、馬鹿なんだ。鳥を売るのが流行るって言ってさ。鳥を借金して買ってきて。そしたら鳥が病気になってさ。全部死んじゃって。自分も倒れて」
少年は遠くを眺めた。
「一攫千金なんて狙わなくてよかったんだ。うちには山羊だっているんだから」
どうやら、あの山羊の群れはこの家の家畜のようだ。
少年が、ガバッと起き上がる。
「兄ちゃん達は?」
「ああ、魔女を探して旅をしてるんだ」
「は?魔女を?」
ああ、こういう反応になるのか。
それはそうだよな。
「魔女の情報とか、ないかな」
「……ないよ、そんなの」
少年はつまらなさそうに、手のひらで草に触れる。
「じゃあ、馬車が手に入るところなんて、知らないか?」
「馬車?」
少年が、何か考え事を始めた。
「ねえ」
そして、少年は俺に、決意の目を向ける。
「うちの馬車、買ってくれないかな」
なかなか威勢のいい山育ちの少年です。




