82 足で歩くのは大変なんだって(1)
丘ばかりが見える道を行く。
両側には、ハニトラとマル。
きっと俺が一番最初に力尽きるだろう。
とはいえ。
乗合馬車には乗れなかったのだ。
みんな、魔物であるマルを見ると、嫌な顔を向けた。
船は大丈夫だったんだけどな。
これから戦いに出る冒険者と、町から町へ渡る馬車では、対応のされ方は違うように感じた。
そして、次に俺が冷たい目を向けられる。
あまり、乗合馬車には乗りたくないというのが本音だ。
なので、いっそのこと乗合馬車は諦めようという事にしたのだ。
誰かがそう言ったわけじゃない。
ただ、自然と、その選択肢は避けたわけだ。
3人で旅をするのに、わざわざ嫌な気分になる必要はないから。
とは言っても、長く歩いていられる自信があるわけではない。
馬車は、手に入れないとな。
この世界、馬車に基準があるためか、値段が比較的高い。
なんでも、街道の真ん中で立ち往生されるのは困るので、馬車そのものの作りから、馬の管理方法まで決まっているというわけだ。
「馬車が手に入りそうなところってどこかな」
なんとはなしにマルに聞く。
「あら、もうお疲れになりましたの?」
マルがツンと鼻を上に向ける。
マルチーズらしい犬が、ちょこちょこと歩く姿は、なかなか絵になるものだった。
「で?馬車は?」
もう一度尋ねると、マルはツンとした顔のままで答える。
「そんな事、知りませんわ。わたくし、馬車なんて必要ありませんし」
「……なるほど?」
そんなわけで、首都の方角へ黙々と歩く。
途中、魔女の情報を得たいので、寄れるところには寄る事にして。
ありがたい事に、今日は野宿しなくてよさそうだった。
夜までに近い村にたどり着けそうなのだ。
そして、何より、この国は平和だった。
魔物の存在が、人間の敵を“魔物”にしていた。
人間を襲う人間ももちろん居るが、それほど多くはないのだ。
金が欲しい、何かを成し遂げたい、何かを蹂躙したい、力を試したい。
そんな気持ちの大半は、魔物へと向いていた。
そして、その魔物は、基本的に外を歩く事はなかった。
そこがダンジョンでもない限り。
なので、あまり人間が外で悪さをする事もなかった。
まあ、居るには居るが…………。
ガイン……!
ほど近くで、刃が何かにぶつかる音が響く。
嫌な予感がする。
素通りしてもよかった。
別に勇者でも、正義の味方でもないのだから。
ただ、自分の都合だけで旅をしているに過ぎない。
けれど、偶然にも見てしまったから。
見えてしまったから。
一人の少年が、男達に囲まれているのを。
それを見てしまった3人に、ムッとした空気が流れる。
そんな光景を見てしまった3人に、それを見過ごせるはずはなかった。
「……行くぞ」
そう小さく呟いたユキナリに、
「うん」
「ええ」
二人が反対する理由はなかった。
「守りの精霊モスよ。あの子供を守る為の力をくれ……!」
さてさて、改めて旅に出ましょうか!




