80 水の精霊(3)
ハッとする。
「ほ、んとですか……!」
ありがたい。
今持っている土の力に加えて、水の力まで手に入ったとしたら。
いや、何としてでも手に入れないといけなかった。
魔女に対抗しているという四大精霊の力。それなくして、魔女とまともに対抗できるとも思えない。
「よろしくお願いします!!」
教会の中には、杖が飾ってある。
真っ白な大きな真珠がはめてある、華奢な真っ白い杖だ。
水の杖といえば青のイメージがあるが、海のそばのこの教会を見れば、海の産物ともいえるこの杖が、とてもよく似合うような気がした。
「外の方が上手くいくの。外で祝福を授けるわね」
「はい」
空はよく晴れていた。
サラは穏やかな笑顔を顔に張り付け、ハニトラとマルはそれに呼応してか、微動だにせずに立っていた。
ただ、目の前の出来事に興味はあるらしく、二人とも瞳だけはキラキラと輝く。
ユキナリの前に、初老の女性が杖を持って立った。
そばには教会があり、海があり、そこに水があった。
サラが、ニコニコと、それでいてあまり興味は無さそうにその光景を見守っていた。
そして、風でかき消されそうな声で、
「もの好きね」
と呟いた。
女性が、杖を持ち上げ、目を閉じる。
そして、呼びかけの言葉を口にした。
「水達よ、目を覚まして。この者の守護者となるように」
………………?
そして目の前の光が、より一層強くなった様な気がした。
光の中に……、いや、水の中に居るような気分だ。
土の加護を貰った時とは違う。
それは、似ている様で、全く違うものだった。
どうして…………。
どうして、呼びかけ先が水の精霊ではないのか。
どうして、直接水に語りかけたのか。
どうして、水の精霊の姿が浮かび上がらなかったのか。
そう……、どうして、この教会は水の精霊の教会であるにも関わらず、水の精霊の像がないのか。
疑問が湧き起こる。
けれど、その疑問は湧き起こるのと同時に、答えも知っていたようだった。
そう。
精霊に呼びかけなかったはずなのに、確かにそれは精霊からの加護だった。
その疑問のハッキリした答えを聞いていいのか分からない。
それはなんだか、口に出してはいけない事のような気がして。
ユキナリは目の前の、水の加護をくれたその存在を、ただただ眩しく思うのだった。
「どうも、ありがとうございます」
ユキナリが丁寧に頭を下げる。
女性は、にっこりと笑った。
「いいのよ。かわいいお嬢さんとワンちゃんにも、水の加護があるようお願いしておくわ」
女性がそう言うと、ハニトラははにかんだ笑顔を見せ、マルは居心地が悪そうに下を向いた。
サラが嬉しそうなユキナリ達を眺めながら、
「ふぅん」
と息を吐いた。
「あんな普通の子達が、モスのお気に入りなの?」
ゆるりと頭を傾げる。
「ええ。いい子達なのよ」
その言葉を聞き、尚更、サラは据わった目で3人を眺めた。
「モスもウンダもお人よし過ぎるのよ。これだからお年寄りは」
「あらあら、あなたも、きっとすぐにわかるわ」
ユキナリくんはサラちゃんのお気に召さなかったようですね。




