79 水の精霊(2)
「あの、ここにいた女性は……」
「ああ!」
少女が思い出したとでもいうようににっこりと笑う。
なんだか、花が咲いたような笑顔をする人だった。
ほんわかとしているというか、おっとりしているというか。
「まだ教会の中にいるわ。すぐ出てくると思うけど……。まあ、ここに座ってちょうだい」
そんなわけで、おずおずと勧められた椅子に座る。
少女が立ち上がってお茶を注ぎ始めた。3人分のお茶。
違和感だった。
俺やマルはそれだけ、こんな待遇を受けた事はなかった。
それでも、なんだか受け入れて貰えていると思えないのはなんでなんだろうな。
目の前に出されたお茶も、素直に飲むのはどうかと思えた。
なんだか、このお茶を飲む事自体がテストででもあるかのような。
そう、なんだか……、視線の中に値踏みされているような空気を感じ取ってしまうのだ。
女性の嫌悪とは違う……。
まさかな……。気のせいだろ……。
女性と話すのが久しぶりだから、なんだかおかしな気分になっているだけだ。
自分を律しつつ、あとの二人の方を見れば……。
ハニトラは、緊張した笑顔を張り付け、小さなフォークでイチゴのタルトをちんまりと切り、口に運ぶ。
マルは、その熱いものが苦手そうな舌で、紅茶のカップにペロペロと口をつけていた。
二人とも、緊張しているのか、若干震えているようだ。
…………これは、気のせいじゃないな。
「えっと……」
沈黙にしないよう、何か話題を探す。
けれど、先に口を開いたのは少女の方だった。
「……名前は?」
「…………ユキナリ」
「ふうん。いい名前ね」
…………え?あとの二人には、名前聞かないのか……?
「あと、ハニー・トラップとマルチネスだ」
付け足すように言うと、少女は黙ってその二人を見た。
にっこりと笑っている。
笑顔なのに、やっぱりどこか値踏みするような瞳。
張り詰めた空気が、チクチクと肌を刺すようになった頃、教会の中から、あの初老の女性が出てきた。
「あら、また寄ってくれたのね」
にっこりと初老の女性が笑顔を見せる。
こちらは、安心感がある。
顔を見れてよかったと思った。
さすがにこの少女は、魔女の手下ではないらしい。
「サラ、いじめてはいけないのよ」
…………あの少女は、どうやらサラという名前のようだ。
「いじめるなんてそんなこと。一緒にお茶を飲んでいたの」
そこで、初老の女性がにっこりと笑顔になる。
「そうそう。お菓子、もっとあるのよ。サラが来るなら、あの子も来るんじゃないかと思って。作りすぎてしまって」
「来ないわよ。いつも一緒ってわけじゃないんだから」
少し拗ねたような声でそう言って、サラはお茶を飲んだ。
「あなた、名前は何だったかしら?」
初老の女性が俺にそう尋ね、答えたのはサラだった。
「ユキナリよ」
「ユキナリね」
そして、初老の女性に、優しい瞳を向けられる。
「あなた、あの港でたくさん水遊びをしたみたいね」
「水遊び……?」
溺れたことや魚釣りをしたことが水と戯れているという範囲に本当に入るのかは疑問だが、まあ、確かに水と以前よりも友好的になれたんじゃないかとは思える。
「まぁ……」
苦笑する。
そして、初老の女性はこう言ったのだ。
「これなら、加護を授ける事が出来るわ」
新キャラのサラは14歳くらいでしょうか。




