78 水の精霊(1)
とうとう、一行は港を出た。
来た時と同じ丘を登る。
あの教会までは同じ道だ。
そこから首都へ向かう。
魔女を探すため、それに、ハニトラの故郷を探すために。
思ったより時間かかったな。
とはいえ。
隣で騒いでいる二人を見ていると、まあ急ぐ旅でもないか、と思い直す。
楽しんだもの勝ちだ、こんなもの。
異性に嫌われる呪いさえなければ。
もしかしたらここに永住だって有り得たかもしれないよな。
隣を歩く二人を見る。
こいつらは、どうして何ともないんだ?
町の女性達の前に出ると、嫌でもわかる嫌悪感。
もしかすると犬には……効かないって事はあるかもしれないな。
マルには、違う種族の何かとしか思われてないような気がするし。
だとしたら、ハニトラは?
やっぱりハニー・トラップなんじゃないか、なんて、つまんない事を考えて。
地面の石ころを見ながら、坂を登る。
そのまま視線を上げていき、空を眺める。
もうすぐ、あの教会だった。
「なあ、教会、また寄っていかないか?」
お世話になったから、なんていう雰囲気を醸し出しつつ、俺はきっと違う事を考えていた。
教会というくらいだから、懺悔室のようなものが、あるんじゃないかって。吐き出す場所になってくれるんじゃないかって。
俺はハニトラに、後ろめたさを感じているのかもしれなかった。
目の前の銀髪が風に揺らいで、ハニトラがくるりと後ろを向いた。
無邪気な笑顔を向けてくれるハニトラを、どうしても疑ってしまうという後ろめたさと、そして、身体から刃を出すという事実を前にしての恐怖を、どうしても感じてしまっているのだ。
「私もあの人、また会いたいと思ってた」
ハニトラが、はにかんで言う。
「あの人…………すごくいい人の匂いがする」
「ああ」
同意する。
あの人は、なんだかどんな話でも聞いてくれるんじゃないかって、そんな気がしたから。
教会では、もちろんあの初老の女性が居るものだと、思い込んでいた。
けれど、遠巻きに見た教会の光景は、予想とは少し違うものだった。
教会の裏手の陽の光がよく当たる場所に、丸テーブルがひとつ出してあった。
そこには女性……と言うには少し幼い雰囲気の少女が一人、椅子に座りお茶を飲んでいたのだ。
ハニトラと同じくらい……いやもっと若い。
中学生……場合によっては小学生でも通じそうなその少女は、ツンとした表情で、一人、優雅にお茶を嗜んでいた。
紅茶を片手に、スコーンやタルトなどのお茶菓子を物色している。
真っ赤なおさげの三つ編みを肩からたらす。ワンピースにドレスエプロン姿は、どこかの名作の某カントリーガールを想起させた。
……気まずい、か?
よりによって異性だし。
けれど、向こうから視認できる場所まで来て踵を返すわけにもいかなかった。
仕方なく、近寄る。
「……こんにちは」
「こんにちは」
少女が、俺に向かって笑いかけた。
新キャラ登場です!




