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静かにしろよ、ハニー・トラップ!  作者: 大天使ミコエル


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74 水の中に(1)

 ダンジョンからの帰りの船の中。


 小さなボートは、海の上を走っていた。

 小さな波が立つ。

 ボートの上にいるのは、我ら3人と船頭さんだ。


 ユキナリは、海の中を見ていた。


 海の中はどうなのだろうと思う。

 俺の世界とはまったく違うのだろうか。

 それとも、呼び方が魔物というだけで、似ている場所なのだろうか。

 イカやタコが言葉を喋るような世界だったなら、それはもう俺の世界でいうSFの光景が広がっていそうな気がした。いわゆる、一昔前の火星のような光景が。


 波打つ水面を見る。


 ゆらりと、一瞬水面が暗くなる。


 ふと、雲の影でも映ったのかと空を見上げた。


 雲一つない青空。


 一瞬、クラリとする。


 雲じゃ、ない。


 だとすれば。


 思った瞬間、


 ゴッ……!


 と鈍い音と共に、船底が持ち上がる。


「な、んだ……!?」


「クラーケンだ……!」


 船頭の言葉を聞き終わらないうちに、船は空中へ持ち上げられ、垂直になった。


「う、わああああああ」


 船頭が、大きなオールと共に海へ落ちていく。

 ドボン、という大きな音がした。


「ハニトラ、大丈夫か!?」

 床を滑り落ちながら、声をかける。

「……私は大丈夫!ユキナリ!!」

 船の中の作り付けのベンチに、足を引っ掛けたハニトラが、俺に手を伸ばした。


 力を尽くして、手を伸ばす。


 指先が触れるか触れないかのところで。


 ゴッ……!


 また強い衝撃があり、船に叩きつけられた。

 そのまま、ユキナリは、暗い海の中へ、ひとり。


 ドプン…………ッ。


 沈んで行ったのだった。


「ユキナリ……!」

「ユキナリ様……!」


 ユキナリを追いかけ、二人も水中へと飛び込んだ。




 海の中でユキナリは目を開ける。


 ゾッとした。

 クジラなんじゃないかと思うくらいのサイズの、薄汚れた生物がグニグニと動いているのが見えた。


 …………イカ……?


 それは、想像以上に大きなイカだった。

 ユキナリと同じくらいの足に、大きな吸盤が付いている。


 咄嗟に思いっきり息を吸い込んだはいいけれど。

 水上が見えない。

 必死で水をかくけれど、巨大イカの水流に勝つことは出来なかった。


「ガボ……ッ」


 沈、む…………。


 水。

 それは水だった。

 優しく受け止めるような水だった。


 ただ、そこでは息ができなくて、音も段々と聞こえなくなってきて、目も段々と見えなくなる。

 ただ、それだけの事だった。


 水は、全てを受け止めようとしていた。


 揺らぐ泡の中で、ハニトラの銀色の髪が、揺らぐのが見えた。

 こちらに、近づいてくる。

 唇が何かを言おうと動いたところで、その細い腕に引き寄せられた。


 胸に抱きかかえられ、守るように抱きしめられる。

 直後、イカが起こす水流に、叩きつけられるように飲み込まれた。


 ユキナリが意識を保っていたのはそこまでだった。


 抱きしめられたまま、俺は、意識を手放してしまったのだ。

ダイオウイカよりデカそうなやつ。

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― 新着の感想 ―
これが、第三のヒロインの衝撃的な登場シーンだったと、我々読者は何話か後に知ることになる……!
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