73 新しい武器
その日から島まで5回ほど通った頃、マルの武器が出来上がった。
いつもは首にかけてある棒のようなもので、それは犬の顔にとって咥えやすいものになっている。
そして、それを咥えると、両側から刃が飛び出すという代物だ。
両側から牙のように30cmはある刃は、高級な素材である白竜鋼から作られており、触れるだけで大抵のものは切れてしまう。
なかなかいいお値段だったけれど、鏡の前でポーズをとっているマルチーズのような犬を見ていると、なかなか悪くない買い物だったと思えた。
これで、知識だけではなく、直接の戦力にもなってくれるようだし。
その刃を試す為、一行は、最後にもう一度、と島へと渡った。
島がダンジョン化されてから、スケルトンの骨の売買が始まった。
スケルトンの骨を粉にすると毒やら薬やらになるだとかで、それほどではないながらも、そこそこの値段で売れるようになったのだ。
スケルトンが毒になる、と聞いて、ユキナリは、どこかのキンキラの部屋でワインを取り落とし血を吐いて倒れる貴族を想像し、打ち震えた。
とうとうここまで来てしまったのかと。
けれど、マルによると、残念ながら、
「食べると身体に蓄積され健康に被害がある。けれど、食品にも使うことがある。消臭剤にすると便利」
との事だ。
「土を司る守りの精霊モス。力を貸してくれ」
ユキナリの声で、他の二人も戦闘体制に入る。
振り下ろしたハニトラの腕が刃へと変わる。
マルがジャンプし、首にかかっていた棒を上手く咥える。噛み締めると両側から、丸まった刃が飛び出す。
ユキナリと先頭に走って行くと、ちょうどスケルトン3体を見つけた。
こちらに気が付かれないうちに、一体のスケルトンにタックルをかます。
よろけたスケルトンの横をマルが通り過ぎると、スケルトンの骨はスポンジケーキで作られているかのようにさっくりと切れてしまう。
腹部分が無くなりまともに動けなくなったところへ、ハニトラが上からクロスさせた刃で押し潰す。
二体目は、マルが飛び込み、腹の部分を無くしたスケルトンに、ユキナリが突っ込む。
盾で押し倒したところを、ジャンプし、上から降ってきたハニトラが脚の刃で押しつぶす。
地面に座り込んだハニトラ目掛けて飛んできた骨を、ユキナリが盾で弾き返すと、飛びかかってきたスケルトンをマルが切り裂き、ハニトラがトドメを刺す。
戦闘はあっという間だった。
持ってきた麻袋に、切り刻んだ骨を入れていく。
だんだんと、戦闘にも慣れてきた感覚がする。
前ほど、何をすればいいか見えてきた気がするのだ。
ユキナリは二人を振り返る。
「横にしか切れないなんて」
ハニトラがマルに向かってへの字口を向けた。
「わたくしの能力は知性も加わりますの。弱弱単細胞のあなたとは違いますのよ」
マルがツンと鼻を上にあげる。
ユキナリがその光景を見て苦笑した。
まあ、戦闘力は格段に上がったし、なかなかの金銭も入手出来た。
「順風満帆なんじゃないですかね」
ユキナリが一人呟く。
木漏れ日の中、土を踏み締め、歩き出した。
なかなかいい旅じゃないか。
さて、また旅立ちますか!




