67 それは大きなモンスター(3)
一息ついたところで、部屋の中を検分する。
大きな鉄のような金属でできた、箱のような機械。
機械からはもう煙は出ていない。
「あ、ユキナリ、あっち」
声をかけられた先に、扉があるのが見える。
壁と一体化した見た目だが、取っ手のある普通の扉のようだ。
言うなればあの扉の先が、このダンジョンの宝箱ってことか。
扉の取手を引くと、鍵もついていない扉は、すんなりと開いた。
「うっ……」
何か、嫌な匂いがする。
とはいえ、幸いな事に、食料が腐ったような匂いだ。
人間の死臭、などではない。
やはり、明かりの点いていない部屋の中。
鼻を抑え、ランプを掲げる。
そこは、8畳間程度のごく普通の部屋だった。
シーツが引っかかっているベッド。
本が開きっぱなしのデスク。
積み上がった本の山。
脱ぎ捨てられた服が床に散乱している。
ここで生活していたのか……。
しかし、そのどれもが埃をかぶっているところを見ると、やはりここの家主はすでにいないと思っていいだろう。
ランプを掲げたまま部屋に足を踏み入れると、ランプの明かりが部屋の壁に反射し、丸く影を作った。
部屋の脇にある小さな棚の上で、食料だったものらしい何かの影が見えた。
何かあるとすれば……、デスクか。
明かりを照らす。
何かの設計図。紙一面に細かく書かれた、覚え書きのようなもの。
何かの数値。
こっちの本のようなものは……研究日誌か?
ページ毎に日付の書いてある本を見る。
…………え?
『atomizing each liquid to make』
…………これ、英語じゃないか?
辿々しい字。
あまり、英語に慣れているわけではないらしい。
けれどそれは、知っている言語だった。
途端に興味を引かれる。
「マル、ここにあるもの、全部持って行っていいんだよな?」
本の山に興味を示していたマルが答える。
「もちろんですわ。ユキナリ様、ここの本もよろしくお願いしますわ」
言われてギョッとする。
「6冊はあるが?」
「この暗さじゃ、ゆっくりと読めませんもの」
「……なるほど?」
仕方なく、その辞書かと思うくらいの本を6冊と、気になった研究日誌を鞄に入れる。
興味を持った結果、デスクの引き出しを片っ端から開けてみた。
ゴチャゴチャと、ゴミのようなものが大量に入っている。
なんか、夜逃げみたいだよな。
ノートの切れ端を丸めたようなもの。ペン。使われていない封筒や便箋の類。
それに。
コトン。
ん?
鍵。
丸められた紙の隙間から出てきたのは、10cmほどの大きさの鍵だった。
金色に、鈍く輝いている。
もらってくか。
ユキナリは、鍵をポケットに入れる。
それ以外に、溜め込んでいたらしい宝石類の入った宝石箱を見つけ、それも頂戴した。
どんなヤツが、ここに住んでたんだろうな。
思いを馳せつつ部屋を出る。
「なかなか悪くないお宝でしたわね」
マルの満足げな顔に「ふっ」と吹き出す。
「まだまだ!島の探検もしたいな」
ハニトラもこの状況にワクワクしているらしい。
「だな!しばらくこの島に通う事になりそうだし、地図でも描きながら冒険してくか」
その声に、マルはため息をつき、ハニトラが目を輝かせた。
ハニトラが腕をぶんぶん振り回す。
「おー!」
なかなかのお宝ゲットだったんじゃないでしょうか?




