66 それは大きなモンスター(2)
二つに分かれたゴーレム。
けれどそれは死んだわけではないらしい。
倒れた二つのお椀型の岩は、それぞれがグラグラと揺れている。分裂させても、その岩は意思を持っているのだ。
「マル……」
ユキナリは、大岩から目を外さない。
「ゴーレムは、死なないのか?」
「わかりませんわ」
マルは、睨むように大岩をじっと見ていた。
「ゴーレムというものは、目撃証言が数例のみ。その結果、四大精霊の力ではない事が結論づけられておりますの」
「それは……、この土の力をくれたモス達とは、全く別の力……、って事か」
「ええ。けれど、そこから先は解明されておりませんわ」
「わからない力……」
「けれど、それほど珍しい話でもありませんわ。この世界は、魔女が集めてきた色々なモノが住まう場所。おかしな力がいくつかあっても、おかしくはありませんの」
「なるほど……」
刃物を持つ少女や、喋る犬がいる世界だもんな。
俺みたいな、異世界から連れて来られた奴が何人いても、おかしくないって事か。
「精霊達のように、大きく力を行使するものならばいざ知らず、一人でコソコソやっている輩の事はわかりませんわ」
「なるほど、な」
じゃあ、ここに一人で住んでいた奴も、異世界人の可能性があるわけか。俺と同じで。
そこまで話したところで、ハニトラが飛んだ。
ガンッ!と大きな音を立て、石を割る。
「だ、大丈夫なのか!?」
刃を心配した言葉を聞いたハニトラは、岩が動き出す事を心配したととらえたのか、
「大丈夫!危険がないくらい小さくすれば!」
と笑顔を見せた。
ユキナリは、もう一つの石を割り、「ふぅ」と一つ息を吐く。
「お前が大丈夫かって聞いてんだよ」
「…………え?」
キョトン、とした顔を見せた後、ハニトラが、少し照れた顔を見せる。
「だ、大丈夫。丈夫、っていうか、そういうのは、なんともならないから」
「そうですわ。弱弱さんは、コアを叩くまで生き続けるしぶとい魔物ですもの」
マルがツンとした顔を見せる。
「そうなのか?」
「うん。だから、大丈夫」
なるほど。心臓みたいなものがあるんだろうな。
「けど、無理はしないでくれよ」
ユキナリが、ハニトラの頭をくしゃくしゃと撫でる。
ハニトラは、顔が熱くなるのを感じた。
ハニトラの血の巡りは、人間に似ている。
まあ、血そのものは人間のそれとは違うので、切ったところで噴き出したりはしないけれど。
つまり、照れるとどうしても、顔が熱くなってしまうのは、人間と同じだったりする。
赤くなったりも、する。
ユキナリの手は、温かい。
私はこんなに変なのに、何の躊躇もなく触ってくれる。
それでなんだか、涙がでてしまいそうになるのだ。
嬉しくてくすぐったくて。
何でこの人は、私の事なんて心配するのだろうか。
……仲間達でさえ、見なかった事にした私なんかを。
なんだか受け入れてくれているように思えて。
その、まだ慣れていない感触に、どうしても嬉しくなってしまうのだ。
一件落着ですね!




