65 それは大きなモンスター(1)
大きな岩は、ユキナリの3倍ほどもある。
「嘘だろ……」
ハニトラは、すぐに臨戦体制を取った。マルは口を開いたまま驚きの顔を見せていたが、こちらも同様、足を踏み締める。
ユキナリは、久しぶりに、恐怖という気持ちを思い出していた。
これほどの気持ちになるのは、魔女をと対峙して以来か。
知らない場所で生きることになっても、初めて魔物と戦うことになっても、こんな気持ちにはならなかった。
これほど、死ぬんじゃないかと思えた日は。
岩に、手足は無く、ゴロリと転がる。
口らしきものも、鼻らしきものも存在しない。正直、耳の穴があるかどうかはここからではわからない。
ただ、目は確かにそこに存在した。
そして確かに、こちらを見ている。
時間が、止まっているようだった。
ゴゴ……。
音が、する。
何の、と思った瞬間に気付く。
その巨大な岩が、動いているのだ。
ユキナリは、短剣に手を触れる。
「土を司る守りの精霊モス。力を貸してくれ」
心持ち、早口でモスに声をかける。
短剣が光るのを確認し、岩に対峙する。
この盾で、アレに立ち向かえるのか……?
まず飛んだのはハニトラだった。
空中で脚を振り、刃物へと変える。
そのまま、岩へ飛び降りた。
が、岩の表面に跳ね返され、飛び退る。
「かたい……!」
ハニトラが、苦しそうに言う。
ハニトラでも、ダメなのか……?
「ゴーレム、ですわね」
「ゴーレム?」
「岩に、命らしきものを吹き込む。いわゆる人工生物ですわ」
「ゴーレム、か」
岩は、基本的にあまり動かない。
手も足もないからだろうか。
けれど、人間を下敷きにするくらいの勢いはあるようだ。
ハニトラが、再度飛ぶ。
弾き返され、また再度。
そして、ハニトラの刃が、グッとゴーレムに突き刺さった。
刃は、すんなりと抜ける。
穴が……、空いた……!
けれど。
ユキナリはハニトラの刃を見る。
あれ、大丈夫なのか?
心配になったのだ、その刃が。
刃は、どう見てもハニトラの身体から生えていた。
アレが欠けたりしたら、どうなるんだ……?
ハニトラは魔物だ。
刃が、身体の一部であるという事も考えられるから。
だから、一人だけに任せてはおけないんだ。
ユキナリは、短剣を構えると、足を踏み出す。
「ハニトラ!穴を空けるなら一直線にだ!」
「わかった!」
ハニトラの声が返って来るのを確かめると、前へ飛び出した。
いくら大きいといっても、相手は手も足もないただの岩だ。
割ってしまえば、きっと何とかなる。
「オオオオオオオオオ!」
向こう側に転がるのを確認し、短剣を突き立てる。
ガキン!
思った通り、跳ね返される。
けれど、短剣自体はなんともなさそうだ。
ハニトラが突き立てた刃の後は、数個目でヒビが入ってきた。
そのヒビに向かって、短剣を突き立てる。
手応えは、十分だ。
「お二人とも、左へ!」
マルの声に合わせ、ハニトラと二人、左へ押すように刃を入れる。
入ったヒビは大きくなり、その結果、
ズズ……ン……!
と大きな音を立て、大岩は真っ二つになった。
戦闘は相変わらずサクッといく方針で。




