62 初級ダンジョンの島(4)
その調子で、スケルトンを3体倒した。
「ハニトラ、疲れてないか?」
声をかける。
ハニトラは「へへ」と返事をする。
島の中心へ行けば行くほど、森は少し鬱蒼としてくる。
ん?
ふと顔を上げる。
聞き間違いじゃなければ。
「人の声、ですわね」
ほど近い所から、人の話し声が聞こえた。
ハニトラを手で制し、コソコソと探りに行く。
この島の魔物はスケルトンだけだという話だ。
スケルトンは会話はしないらしい。まあ、あの歯しかないような口では、声を発する事も無理だろう。
草むらにそっと隠れ、顔を覗かせる。
するとそこに居たのは、やはり冒険者だった。
ボートで見かけた覚えのある3人組。
そのうちの一人が、うずくまっているようだった。怪我でもしたか?
「どうかしましたか」
短剣を握ったまま、声をかける。
相手が人間だとはいえ、ここで襲われてしまってはひとたまりも無い。
ザッと視線がこちらへ集まる。
うずくまっているのが女性だからか、一瞬で嫌悪の色が混じる。
「怪我を、してしまって」
俺とそれほど歳の変わらなそうな少年が、困ったように答えた。
実際、うずくまっている女性は、木にでも引っかかったのだろうか、脚が縦にパッサリと切れてしまっていた。
「助けられ……るか?」
そういえば、とキャンプ用品の中に、軟膏を入れていたのを思い出し、それを分けてやった。
マルが、
「お優しい事ですわね」
なんてツンとした声で言う。
マルも、あまり人間には好意を抱かれないタイプの存在だ。あまり人間に優しくするのはイヤなのだろう。
けれど、それだけの恩恵はあったようだ。
「これ、ここの地図なんですけど」
と、地図を見せてもらう。
「あっち側から出ると海に近くて」
と、少年が右側をさす。
「こっち側には、島の中心である建造物があるはずです」
と、今度は左側をさした。
確かに、ほぼ円状の島。ほとんどが森であるのだけれど、その中央部だけ四角く色が抜かれている。
「ここか。ここに行けば、何かありそうなのか?」
「いや、まだわからない。けど、ここに一人で住んでいた人間がいるという事だ。今回、ダンジョンになった事で、この中も改める事になったからな」
なるほど。
持ち主が居なくなった家の中を合法的に荒らせるって事か。
冒険者も、あまり綺麗な職業ではなさそうだ。
「じゃ、あっち側に行ってみるか」
建築物がある方角へ。
ハニトラが、にっこりと、
「うん」
と答える。
それから数分もしないうちに、その建築物は目の前に現れた。
思ったよりも簡素で、思ったよりもただの小屋、といった見た目。
……島に一人住んでいた人間、か。
「本当に、ただの隠居なのかもしれないな」
けれど、マルが一歩踏み出す。
「気を抜いてはいけませんわ。ダンジョンになる程、魔女に楯突いた人間の家。何かが出てきても、おかしくはありませんの」
マルの垂れ耳が、ピコンと揺れる。
「わたくし、言いましたわよね?地上は簡単だって」
「…………じゃあ、本当に、地下ダンジョンでもあるっていうのかよ」
マルが、ふふんと鼻を鳴らす。
「それは、行ってみてのお楽しみ、ですわ」
マルが一番頼りになりますね!




