6 異性に好かれなくなる呪い(2)
避けられている、空気だった。
俺は、空気が読める男だ。
けどなんで?俺、何かやっちゃった?初めてここにきた時に?
いやいや、もしかしたら、よそ者の男は危険人物として扱われる運命なのかも。『知らない人について行っちゃダメよ』というヤツだ。
そんな風に自分に言い聞かせて、その場は乾いた笑いを貼り付けながらなんとか乗り切る事となった。
けれど、それから、知ってしまったのだ。
この村には、なんと10人の女子が居るらしい、と。
この1週間、性別がどう見ても男な奴と食料を分けてくれるおばちゃん数人しか見かける事がなかった。
若い人は少ないんだな、まあ、田舎だしな。なんて考えていたくらいだ。
けど。
……避けられている。
流石に、見かける事すらないなんて。
おかしくないか?
そこで、ふと、あの魔女の言葉を思い出す。
『異性に好かれなくなる能力』
まさかな、なんて思うけれど、自分に都合のいい事ばかりじゃない。
実際に、言語能力は体験済みじゃないか。
与える能力は一つだなんて、誰も決めてはいないわけで。
「え……?」
青い空の下で、自分の手を見る。
腕を嗅いでみる。
そんな……、呪いみたいなものが俺に……?
ここに居ても、恋愛も、結婚もできないまま……?
スローライフ生活に、翳りが差した瞬間だった。
その日は、その事ばかりを考えた。
雑草を取っている時も、食事をしている間も、掃除している間も、水浴びをしている間も。
薄暗い部屋の中、ランタンの灯りを見ながら考える。
何かの間違いであってほしかった。
木製の古いテーブルに頬杖を突いた。
そうだな、ここを、出よう。
ここに居ると、俺は迷惑になってしまう。
それに俺にとっても、最善は元の世界に帰る事だ。
この呪いを解いて。
元の世界に帰る方法を探す。
いや、もしかしたら、元の世界に戻れても、あの魔女が居る限り、またこの世界にあっさりと送られる可能性はあるわけか。
今度こそ、檻に入れられるか、もっと酷い呪いをかけられる事もあるかもしれない。
だったら。
あの魔女を探して。
あの魔女に、女に嫌われる呪いを解かせて。
元の世界に戻る。
これしかないか。
「はぁ……」
とひとつ、ため息を吐いた。
翌日の昼食時。
「神官様」
「どうした?」
今日の昼食は、小麦を麺状にして汁に浸した食べ物だった。
まあ、所謂うどんだな。知っているうどんよりも、少し甘い。
「俺、この村を出ようと思って」
「そうか……」
諸手を挙げて、『やっとその気になってくれたか!』なんて言われたらどうしよ……。俺、立ち直れない……。
なんて思っていたから。
その神官の寂しそうな顔に、少しドキリとする。
そして、どこか、実家を出る時の母親を思い出した。
実家を出た時から、何か気に入った場所があれば、そこに定住してもいいと、そう思っていた。
例えば旅行先で、気に入った場所があれば、死ぬまでそこに定住してもいいと。
流石に、それが異世界だなんて想定した事はなかったけど。
実家の両親の為に、躍起になって元の世界に帰ろうなんて思わない。
けど。
心は、少しだけ実家を恋しく思った。
「もし、帰るところがなければ、またここへ帰って来るといい」
そう言われ、神官は親でもおかしくない歳なのかと気付いて、少し照れる。
「はい」
久しぶりに、安心して笑えた気がした。
結局旅に出る事になるんです。こんな呪い体質、あまり歓迎はできませんからね。