59 初級ダンジョンの島(1)
「やっと乾いてきたか……」
パンツ一丁姿で、川原に服や靴を乾かす。
陽は暖かく、町へ戻るのにもそれほど困らないと思った、その時だった。
ブシャブシャブシャブシャ!
「うおっ」
水が、シャワーのように降りかかってくる。
水からあがったマルが、ブルブルと水を振り払ったのだ。
「あらぁ、ごめんあそばせ。つい、クセで」
クセっていうか……。まあ、犬なんだな……。
乾きかけていた服がまた濡れたのを見て、なんだか笑えてくる。
その日は結局、湿った服を身につけて町まで戻った。
まあ、泥だらけのまま町の中を歩くよりはずっとましというものだろう。
素っ裸で町へ戻ろうとしたハニトラを、慌てて引き止めて。
「でもね、ユキナリ」
嫌な予感がする、真剣な顔だった。
「濡れてる服は、あんまり着たくない」
「いや、それは俺もなんだけどさ。服で隠さないと、変態になっちゃうからな?」
「ヘンタイ……」
「捕まったら牢屋行きだからな」
まあ、この国に警察的なものがあるのかは不明だが。
「それは嫌」
ということで、服を着てもらう。
そんなこんなで、水で湿った服を着て、町まで帰った。
どれだけ湿っていても、泥だらけの状態よりはまだ良かった。
そんな日が、3日続いた。
……くそ、次は汚れづらい服買ってやる……。
なんて、思いながら、毎日服を洗う日々だ。
今まで服一着でもなんとかなっていた事がわからなくなるくらいに。
いや、それだけ戦ったり冒険したりしていなかったという事か。
結局のところ、土の盾は、直径1.5メートルといったところまで大きくなった。
透明の盾を出したままダンジョンを進むのにちょうどいい大きさだろうか。
マル曰く、修行次第で、盾の大きさは自在に操れるようになるものだという。
それと、出てくる砂も、操れるようになってきた。
これなら、敵の目潰しくらいには使えるだろう。
……だんだんと、ひとまずの訓練は積んだと言えるようになってきた。
あとは、実戦か。
そして、ちょうど冒険者ギルドで新しい初級ダンジョンが公布された日の朝、一行はその初級ダンジョンに向かう船の上に居た。
平べったい30人ほどが乗れるボートだ。
すぐ近くで、水飛沫が上がる。
思った以上にスピードが速いのは、水の精霊の力だろうか。
「楽しみだね」
「ああ」
そう言って、景色を眺めるため身体を傾けると、すぐ隣で、ビクッとした感触を感じ、そちらの方を見る。
すると、冒険者の女性が、あからさまに嫌な顔をこちらに向けているところだった。まるで、そのまた隣にいる年若い女性冒険者を守るような目で。
……え。
そして、一瞬の後、理解する。
これは、アレか。
異性に嫌われる呪い。
最近、ハニトラとマルと一緒に居るから、それほど感じる事はなかった。
けど、今でも確かに呪いはかかっていた。
屋台で串焼き一つ買うにも、店員が女性だと無視される事もしばしばだ。
謝るわけにもいかず、ただ、魔女を憎む事しかできない。
「ハニトラ、席、代わってくれないか」
「え?いいよ」
訝しみながらも、ハニトラが席を代わってくれる。
ハニトラとマルの二人なら、何故か嫌がられる事はないので安心だ。
船の上で、風に打たれる。
そして、その風に打たれた目で、ため息を吐いた。
呪いは相変わらず、健在です。




