58 水浴びタイム(3)
川の真ん中あたりにある、水に打たれているばかりだった岩に腰掛ける。
サラサラと流れる川の中にぺたりと座るハニトラの髪に触れる。
…………は?
するりと、髪に指が通る。
見た目は確かに髪の毛だ。
手触りも、髪の毛だと言われれば髪の毛だろう。
その細さも。
何もかも。
けれど、何かが確実に違った。
人間の髪の毛は、死んだ細胞なのだという。
だとしたら、ハニトラの髪の毛はまるで……。
泥も、するりと落ちていく。
何の抵抗もなく。
ただ、髪の方から泥を手放したように。
ホントに、人間じゃ、ないんだな。
ただ……。
この感触は、嫌じゃないな。
スルスルと、髪に指を入れるだけで、まるで汚れたことなんてないくらいの銀色の髪が光った。
とはいえ、気にかかるのは、髪を梳いている手のそばにあるハニトラの肩である。
ツルツルだった肩は、すっかり泥に包まれている。
ただ、肩の形はそのままなのだ。
その緩やかなカーブを描く肩は、果たして触るだけでそこについた泥をスルリと落とすのだろうか。
それは、正直、知識欲の欠片もない、ただ触りたいという気持ちから来る疑問だ。
ハニトラの様子を見ると、川の水をパチャパチャとしている。
腕やら何やらを洗っているのだろう。
今なら、触っても気づかなかったりしないだろうか……。
髪が銀色に戻ったところで、手のひらで、ふいっと肩に触れてみる。
想像した通り、肩からスルリと泥が落ちる。
「ひっ、ひゃああああ!!!」
えっ……。
ただ、その悲鳴は予想外だったのだ。
ハニトラが、びっくりするなんて。
慌てた様に、ハニトラがぐるりと振り返る。
「うっわああああああああ!!」
今度は俺が驚く番だった。
前側はすっかり、泥が落とされていたのだ。
つまり……すっかり見えてしまっているわけで。
ぽよんとしたそれが目の前で跳ねるわけで。
「ご、ごごごごごごめ……ごめん!」
謝るしかなかった。
自分でも、驚かせた事に謝っているのか、見てしまった事に謝っているのか、両方か、わからなくなってしまったくらいだ。
「び、びっくりしたんだよ!?」
ハニトラの、ほんのりと赤く火照った頬に困惑する。
そして、それでもぽよんとした胸を隠そうともしない姿に、混乱した。
いや、いやいや、コイツは元々こんな奴だよ。
「ハァ…………ハァ…………」
横を向いて目を閉じ、息を整える。
薄目を開けて、視界が水ばかりなのを確かめると、ほっと息をついた。
「……そんなに驚くと思わなくて、さ。ごめん」
「だ、大丈夫。びっくりしただけだから」
妙な空気が流れる。
いや、そんな空気になる前に服を着てくれ……!
だってこんなの、おかしいじゃないか。
ハニトラみたいな何も考えてないような奴相手に、そんな空気になるなんて。
ハニトラが、今更何か反応するなんて……。
ユキナリは、何か拭わなくてはならないものが顔にこびりついているのだと言うように、もう一度びしょ濡れの茶色く染まった服で、顔をグイと拭いた。
イチャイチャしたくとも相手が裸じゃあ困ります!




