56 水浴びタイム(1)
「はーあ」
明日もここで練習する事を約束し、ユキナリは一つため息を吐いた。
「じゃ、お前ら、水浴びに行くぞ」
「水浴び?」
ハニトラが、キョトン、と首を傾げた。
「ハゥ〜ン?」
マルが犬の様な声を出す。
「このままじゃ、町まで戻れないだろ」
3人の姿を見る。
森の中は思った以上に湿っぽく、明るい日差しの中で見る姿は、思った以上に泥だらけだった。
ユキナリは、着ている服に加え、髪も顔も手も足も、泥が入って来た腹まで泥だらけだ。
マルは元々白だったかどうかなんてわからないくらい茶色くなって、ドロドロとした中に、乾いてこびりついた泥の塊があちこちひっついている。
ハニトラは、すっかり人間型の泥団子のようだった。
……中身が裸だなんて事まで忘れそうだ。
そのあまりの酷い惨状に、海へ向かう。
ドロドロとした足を引きずる。
けれど海までたどり着く必要はなさそうだった。
歩いている途中、遠く、サラサラとした水が流れる音がしたのだ。
「……川?」
「……みたいですわね」
泥だらけになって遊んだせいか、むしろ機嫌が良さそうなマルと、泥だらけなのにそれほど気に留めてもいない様子のハニトラが顔を上げた。
草を分け行って進んでいくと、海へ流れ込む川が、広く緩やかに流れていた。
「ここでいいか〜」
ユキナリが、泥のついた鞄や履けなくなり手に持っていた靴を投げだす。
ハニトラが、つま先を水に入れ、冷たかったのか、
「ひゃあ」
という声を上げた。
ユキナリも足を突っ込んでみる。
「お、冷て」
笑いながらそう言って、ハニトラにパシャパシャと水をかけてみる。
「ひゃあああ」
ハニトラはまだ水の冷たさに慣れないのか、足踏みしながら、叫び声を上げた。
「ユキナリ〜〜〜〜」
手を構えたハニトラが、そのまま水をかける体制になる。
そしてそのまま、容赦なく、俺がかけた倍以上の水が、バシャバシャと俺を襲った。
「うっわ。ほんと、冷ってぇ」
水をかけあい、ハニトラの方を見た時だった。
うわ……。
太ももの泥が落とされ、肌色が見えている。
そうだ。こいつ……、裸だったんだ。
唐突にそんな事を思い出す。
「あ、あああああああ、マ、マルは一人で大丈夫かな」
若干挙動不審になりつつ、真横を向く。
そこから散々周りを見渡した挙げ句、ちょうど、ハニトラの後ろ側で、マルが一人、水の中に入って行くのが見えた。
「あー……、俺、あっち手伝ってくるわ」
汗をかきながら、そそくさとマルの方へ行く。
「ユキナリ〜〜〜〜〜!?」
ハニトラの声を背中で聞きつつ、マルのところで川の中に座った。
座れるほど、浅く、広い川だった。
言い訳に使っただけのつもりではあったけれど、水の中のマルは、すっかり川を泥の色に染めていた。
「大変そうだな」
「まあ、大変ですわね」
モシャモシャとした毛先を見ながら、マルが水の中に座り込む。
水は、暖かな陽光の中で、キラキラと輝く。
不満そうな面もありつつ、3人仲良く出来そうな雰囲気ですね。




