55 土の精霊(3)
微かに、けれど確かに、刃は透明な青に光る。
「!?」
驚いている間もなく、短剣の周りに何かが広がるような衝撃が走る。
「うおっ!」
マルが、キラキラとした目でまた、中空を見た。
まるで、精霊がそこに見えるみたいに。
「いいですわ」
今度は、満足そうな顔だった。
「この感覚は?」
言いながらも、力が抜けて行くのを感じる。
「もちろん、何もないところから力が生まれるなんて事はありませんもの。あなたの力、この自然界の土の力なんかを使って、形にしてますの」
「それで、こんなに力が抜けてくのか」
「ええ。まあ、いわゆる魔力というものですわね」
「これは……」
ユキナリは、短剣を振る。
見えないけれど……。
「盾?」
「ですわ」
透明、なんだろうか。
まるで傘のように、短剣の周りに何かが広がっていた。
振ると、空気を切る感触がある。
大きさはそれほど大きくもなく、直径1mといったところか。
「これで、攻撃を弾く事が出来ますの。弱弱さん、攻撃してみてくださる?」
「獣ごときに言われたくない」
むっとした顔をしながらも、ハニトラは、ブン、と腕を振り、その腕を刃に変える。
「行くよ、ユキナリ」
キッとした視線を見せるハニトラに、ユキナリは短剣を構えるしかすべがない。
「おう」
ハニトラは、勢いよく刃を繰り出す。
うおっ!
思わず短剣で振り払おうとしたところで、ガン!という大きな音を立てて、ハニトラの刃が跳ね返された。
空中で。
一瞬、ドキっとする。
あれ、まさか痛かったりしないよな?
あの、どう見ても腕から生えている刃の姿は、あの刃も腕なんじゃないかと不安にさせる何かがあるのだ。
ハニトラを助け起こしながらも、短剣の、あるべき場所に何も見えない空中を見る。
「今の……」
短剣の周囲。
確かに、そこには何かが存在した。
なんだか軽い盾の様な何かだ。
「すげ……」
素直に感想が漏れる。
マルが、ドヤ顔を見せた。
「ふふん。まあまあですわね」
「これよりも、強くなるって事か?」
「ご明察、ですわ」
マルの鼻がツンと持ち上がった。
「盾は人々を守る盾。力をお借りしているとはいえ、これほど小さなものではありませんわ」
これでも小さい方なのか。
そりゃ、そんな簡単にはいかないか。
「それに」
マルが短剣の柄に手を触れる。
「土も出ますの!」
ドシャ!
「!?」
短剣の刃の部分全体から、ドシャ、と土が飛び出してきた。
「これ……は……」
「土の力ですもの」
「なるほど……な」
目潰し、だとか……あとは、火を消す時とか、か……?
使い道はともかく、まあ、便利な場面はありそうだな、と思う。
「1日で習得するなんて、なかなかのものですわ。流石ユキナリ様!」
「うん!すごいよ、ユキナリ!」
終始おとなしくしていたハニトラも、嬉しそうな顔をした。
マルが、嬉しそうに土の上でまたゴロゴロと転がる。
それに合わせる様に、ハニトラもまたゴロゴロと転がった。
うああ、これは、泥落とすのが大変だぞ……。
短剣が青く光るのは、元々の海竜の鱗の色に由来しています。




