52 3人パーティー(2)
2、3日後。
ということなので、3日後の朝に船の予約を取った。
大勢が乗れるボートの様だが、どうやらうちの予約が滑り込みでギリギリ入れたという雰囲気だった。
それは、正式にダンジョンとして登録される前から、船が何艘も埋まるほどの冒険者が既にダンジョンの情報を入手しているという事だった。
船をまとめている商会から外に出る。
「錨を上げろー」
という大きな声と、潮の匂い。それに、海のザザザ、という音が聞こえる。
荒々しくはあるが、記憶の中にある“海”というものとそれほど違いはない。
「ライバルは多そうですわね」
マルが相変わらずの、ツンとした顔で言う。
「まあ、あと3日ありますし、情報取得とパワーアップ、ですわね」
「情報取得?」
「ええ。本気で行くならば、調査を行なった人物を探し出し、聞き取り調査をするのですけど。お二人の戦闘能力を見る事の方が先かしら」
そこで海から風が吹いて、つまらなそうに歩くハニトラの銀髪を靡かせた。
戦闘能力……か。
「あ、俺、戦闘はあんまりできなくて。ここで、少しでもあがればと思って来たんだけど」
「そうですわねぇ」
マルの真っ黒な鼻がヒクリと動く。
「土の力は他の三種とは様相が異なりますものね」
「…………ん?」
なんだって?
「土の……?」
俺の疑問を聞き咎める様に、マルの垂れた耳がピョコンと動く。
「土の力、ですわ」
その言葉を聞いて戸惑った俺に向かって、マルは、
「クゥ〜ン……」
と一つ鳴いた。
「力を使った事が……ありませんの?」
「ああ。正直、その“土の力”ってのはどんなものなのかも……」
「あら、あきれた」
マルがツンと鼻先を持ち上げる。
まるで何処かのお屋敷で飼われている毛並みのいい飼い犬の様だった。
「土の祝福を、受けてらっしゃいますわよね?」
そこで、ペケニョの村を出る時に受けた、土の精霊の祝福を思い出す。
「ああ」
「祝福を受けた者は、その力を借りる事が出来ますの。まあ、直接その、土の力が出てくるので、戦闘に使う事がほとんどですが」
「土が出てくるのか?」
「イメージ的なものですわ。土は、どちらかと言えば防御の力。攻撃に使う事はまずないでしょうけど。持っていて使わないなんて。精霊モスがお嘆きになりますわ」
「そういうもんなのか……」
突然に湧いた“戦えるかもしれない力”に、ワクワクと胸が高鳴るのを感じる。
「その力、どうやって使うんだ?」
「そうですわね」
言いながら、マルの左耳がピョコンと持ち上がる。
「ユキナリ様なら、その短剣に宿らせるのがいいですわね」
「宿らせる……?」
その魔法の様なかっこいい言葉に、高揚する。
「ええ。今日早速試してみましょう」
そんなわけで俺達は、その日から、人目につかない森の中で、修行をする事になった。
マル曰く、土の精霊の力を借りるには、土と一体化を感じられる場所がいいという事だ。
「うしっ」
気合いを入れると、俺は森の中で、光る短剣を鞘から抜いた。
マルは賢者を名乗るだけあって、なかなか物知りなのです。




