49 犬(2)
宿は、海が見える場所に借りる事が出来た。
賑わう通りが見える。
港側は、いかにも海の男といった屈強な男達と、船で冒険に出かける屈強な冒険者が多く見える。
もう少し陸側に行けば、人通りのおおい商店街がある。
港町は、他国との交易が盛んらしく、色々なものが入ってくるために商店街も人通りが激しい。
けど、そういえば、と思う。
この国に来てから、町の中で動物を見ていない。
猫も居なければ、そう……犬も。
ベッドでゴロゴロしているマルチーズを見る。
見た感じ、元の世界に居た犬と、まったく変わらない。
……違うのは大きさくらいか。
こんな害にもならなそうな生き物まで魔物扱いって、どうなんだ?
もしかして、人間以外は全部“魔物”、だったりするんだろうか。
そこで、ハニトラが部屋に付属の風呂場から裸で部屋に入って来たので、服を来てもらう。
俺は、窓辺に置いてある、丸椅子に座り直した。
「まず、冒険者ギルドを探そうと思う」
む〜〜〜っとしていたハニトラが、そのままの顔で、「うん」と頷く。
「そこで新しいダンジョンの事を聞いてさ。それから、こいつの飼い主を探して……、」
そこまでいったところで、服の袖を引っ張られた。
驚いて見ると、犬が不服そうに服の袖を引っ張っている。
「………?お前だって、幸せな家に住みたいだろ?ご飯がいっぱいもらえる、さ。ダンジョンには連れて行けないし」
言うと、ハニトラがニヤリとして犬の首根っこを持ち上げた。
「そうだよ〜。この子には、幸せになってもらいたいもんね」
……どう見てもニヤニヤ笑いを堪えている顔だが?
「ヒゥ……キュゥンキュゥン……」
悲しそうな声を上げられてしまう。
その……ルナみたいな顔で悲しい顔されると、弱いんだよな。
そんな犬を、ハニトラが抱え上げた。
「獣ちゃん、幸せになって」
むぎぎぎぎぎぎと犬がそんなハニトラに、肉球で応戦する。
正直、服を来ているとはいえ、柔らかそうな肉球に追い立てられる美少女、というのはなかなか見応えがある。
どちらもそれほど力はなく、ムニムニとした取っ組み合いが始まった。
それにしたって、なんでハニトラはただの犬に過剰反応するんだよ。
まあ、人間の言葉はわかってるみたいだし、万が一、忍犬みたいな可能性もあるのか?
と、子供の頃に見ていた忍者アニメ事を思い出す。
「う〜〜〜ん」
と、止めるでもなく二人の事を眺めてしまう。
ムニムニと頬や胸に向かって抵抗され、怯んだハニトラから、犬が地面に降り立った。
万が一、戦えるんなら、一緒にいてもいいのか……?
魔女の手下って事は……。
出会いの情景を思い出す。真っ暗な部屋に鎖に繋がれ囚われていた犬。その後の震えながら眠っていた怖がりよう。
ないか。
「う〜〜〜〜〜ん」
と考えていると、
「…………わかりましたわ」
と、何処かから声がした。
え?
それは確かに、シュンとした顔の犬から発せられた声だった。
「わたくし、お話することにいたしますわ」
いよいよ二人目のヒロインのワンちゃんが正式加入ですね!




