48 犬(1)
「じゃあ、一晩ありがとうございました」
そうお礼を言うユキナリ一行は、教会の外に出た。
初老の女性は、にこやかにしている。
「この教会は、何の精霊の教会なんですか?」
「ああ、ここ?」
言いながら、女性が鐘を見上げた。
「ここはね、水の精霊の教会なの」
「水の精霊…………」
言われてみれば、鐘の周りには水滴のような水流のような装飾がしてある。
「それって……、俺、祝福とか受けられませんか。……土の祝福みたいに」
聞いてはみたが、それはそれほど簡単なものではないようだった。
「それは、あなたがもう少し、水と仲良くなれたら、ね」
水と仲良くなれたら……。
そういえば、ペケニョの村で祝福を受ける前は、ずっと畑仕事をやってたんだっけか。
そういう事なら、しかたがないか。
「あっちが国境。そして、その右側に、海が見えるでしょう」
女性は、遠くを眺め、目を細めた。
国境と言われた方角には、広い森が広がっていた。
「あっちが、マールの港」
港町自体はまだ見えなかった。
けれど、行き交う船がいくつか見える。
……あそこで泳ぎまわれば、水の祝福も受けられるようになるんじゃないか?
そんな呑気な事を考えて、海を見る。
気持ちのいい丘の上だった。
「じゃあ行くか」
2人と1匹で歩き出す。
後ろを振り返ると、海を見下ろしぽつんと立っている水の教会と、緩やかに笑顔を作る女性の姿が見えた。
あれ……。
女性を眺めてふと思う。
本で見た精霊4人の姿。
一人の姿があんな感じじゃなかったか。
土のおじさんと、少年と、少女と、そして……、おばあさん。
雰囲気が、似ているのだろうか。
ハニトラが走り出す。
犬も、ピョンピョンと跳ねながら歩いている。
「はしゃぎすぎだろ」
笑いながら、後を追う。
丘から下る道すがら。
ユキナリの隣を、ピッタリとスキップしながら犬が歩く。
その犬を見て、ハニトラが犬に向かってキックを繰り出す。
「おおおおおおおおおおい」
慌てて止めにかかる。
「なんでお前は、そんなに犬に突っかかるんだよ」
「ガルルルルル」
と言っているのはハニトラの方だ。
おいおい。お前の方が犬より犬だぞ。
「だってこの獣が……ユキナリに……」
「獣じゃなくて……」
犬だろ。
と言いかけて、こいつに名前がない事に気付き、口をつぐむ。
かといって、これから飼い主を探すんだから、名前は必要ないんだよな。
港まで行く方が早いか。
気を取り直して、
「さっさと港まで行こうぜ」
と促してみる。
犬は、
「アンッ」
と鳴き、ハニトラは、
「うんっ」
と走っていく。
その後ろ姿があまりにもワクワクしているから。
……犬よりも犬だな。
なんてつい思ってしまう。
それから2時間ほど歩いて、港町が見えてきた。
港には、大きな船が3艘ほど停泊していた。
賑やかで、騒がしそうな町だった。
金を稼ぎに、というのはわかっているが、ユキナリも、少しワクワクしてしまうのだった。
ハーレム二人目のメンバー入りももうすぐですね!




