46 ひとりぼっちの森の中
「どうして私だけ、形が違うの」
理由くらい知っていた。
けれど、そんな理由なんてどうでもよくなるくらい、私はひとりぼっちだった。
母に言うわけにもいかない、疑問ですらないその文句のような言葉を、私は時々、一人言葉にした。
理由くらい知っていた。
うちの一族の母が、人間である父に、恋をしてしまったからだ。
二人はずっと、二人きりで、森で暮らした。
いつしか、母が、私を産んだ。
……産んだという言葉が、正しければだけれど。
父の姿と、同時に飲み込んだ父の剣が、私に受け継がれた。
私は、他の一族とは違い、人間の形をしていた。
二人は幸せだった。
きっと、幸せだったと思う。
父が死に、母は一族に連れ戻された。
私は母から生まれたモノだから、私も一緒に住まなくてはならなくなった。
一族は、みんな母と同じ姿をしていた。
みんな、名前も持たなかった。
人間のような姿をしている私。
……みんなと同じ姿に、なれないこともなかったけれど、だから上手くいくという事もない。
みんなと同じ姿をしているのは、気ばかり張って大変疲れた。
かといって、姿以外は人間ではない私が、人間の中に入って生活する事も苦労ばかりがうかがえた。
だいたい、服を着ているだけで、食事だって捗らないのだ。
眠る時に人間の服なんて着ていたら息が苦しいし。
それに、母譲りの銀色の髪と青の瞳。
目立って仕方がない。
だからつらくても、一族のみんなと一緒に居た。
一族のみんなは、いつだって私を遠巻きに見た。
仲間に入る事は、出来なかった。
「どうして私だけ、形が違うの」
森の中、よく一人になった。
一人、その言葉を呟いた。
森の中で一人、仰向けになる。
背中には、土の感触がした。
目の前で、木立の中に陽の光が揺れた。
初めてだった。
家族以外で、ユキナリが初めてだったのだ。
私の事をゴミの様に見ない人は。
言葉を交わそうとしてくれた人は。
そのままの私を見ても、近付いて来てくれた人は。
誰かに笑いかけられたのは、両親と森の中で暮らしていた時以来。
「へへ」
それを思うだけで涙が出る。
ユキナリと一緒にいると、心があったかくなる。
気持ちがふわふわとする。
一緒に居たいんだ。
こんな気持ちをくれた人に、命を捧げてもいいとさえ思う。
結局、泊まらせてもらった教会の中。
一人で人間のベッドに眠る事は、どうしても怖いから。
結局、ユキナリのベッドにお邪魔しようと、ユキナリが泊まる部屋の扉を開けた。
「ユキナリ!私、やっぱりこっちで……」
そこで、ハニトラは見てしまった。
ベッドの上。
ユキナリが、撫でているのは、あの……獣…………。
「あああああああああ!!!!ユキナリ!!!!」
「なんだよ!?なんで脱ぐんだよ!?」
「ユキナリだって、その獣と…………、ベッドで……裸で……!」
「裸って……。犬だろうが」
「い、犬…………?獣の事?ユキナリはそういうのがいいの!?」
うええええええん。
「どういう事だよ!いや、お前は服を着ろよ!」
というわけで、ハニトラの物語でした〜!




