43 絶望の声(3)
そんな声を聞かされて、ルナに似たそいつを連れていかないわけには、いかなかった。
鳥籠に手を伸ばす。
太い鉄格子が付いてはいるが、それ以外に特別な細工がされているわけではなさそうだった。
「ハニトラ」
ハニトラを振り向く。
「これ、開けられるか?」
「壊してもいい?」
「壊してもいい」
ブン、とハニトラが腕を振ると、いつものように肘から先が刃になる。
そしてハニトラは躊躇なく、鳥籠の上部に向かって腕を横に勢いよく振る。
「……!!頭下げてろよ……!」
マルチーズらしき犬に声をかけ、ハニトラの腕の行方を見送った。
バキン!
鳥籠の上部が吹っ飛ぶ。
けれど、それ以上に、デカい音が立ってしまった。
「ヒィ……ン……。キュウゥン、キュゥン」
心臓を締め付けられるようなその声。
そして、その真っ黒に光る瞳が、こちらの方を見上げた。
ポッカリと開いた鳥籠の上から、手を伸ばす。
必死にピョンピョンと飛びついて来たその犬を、難なく抱き上げた。
見た目通りの重さ。
抱えられる大きさで、よかった。
けど、”よかった“で済みそうな時間は、そこまでのようだった。
ガチャリ、と暗がりにあった扉が開けられる。
……そりゃあ、外にも見張り、いるよなぁ。
腰の短剣を取ろうとして、バランスを崩す。
相手は、3人もの大柄な男のようだ。
どうする。
どうやって抜ける。
そこで、前へ出たのはハニトラだった。
両腕の先が刃に変化している。
それどころか、肘からも小さな刃が生えていた。
「私が居るよ!」
構えのポーズを取ったハニトラを前に、男達は少し怯んだようだった。
ハニトラは、そんな男達に向かっていく。
振り上げた刃は、躊躇なくその腕を切り付ける。
ザンッ!
切りつけた腕から、血飛沫が舞う。
「この野郎……!」
男が振り上げた剣が、ハニトラを襲う。
それを軽く躱すと、ハニトラの刃は、男の顔に襲いかかった。
「兄者……!」
顔を切り付けられ、名前を呼び合う男達の横を、すかさず通り過ぎる。
外は夜だった。
まだそれほど遅い時間ではないようだが、空には星が輝いている。
ハニトラが男達を刃で阻んでいる間に、犬をがっしりと抱いたまま、俺は走りに走った。
「ゼハ……ゼハ……ッ」
腕の中の犬が生きているのを確認すると、短剣を抜き放ち、後ろを振り返る。
ハニトラは大丈夫か……!?
心配をよそに、ハニトラは、足の刃で男達を蹴り飛ばしたところだった。
「ユキナリ……!」
「ハニトラ!来い!」
ハニトラの足は、それほど速いわけでもなく、二人でゼハゼハ言いながら、死ぬほど走り、森の草むらの中で息を殺した。
肌寒くなり、夜が更けていくのを肌で感じる。
腕の中の命が、フルフルと細かく震えている。
ハニトラも、俺の横で声を押し殺していた。
肩が、振れる。
何時間も経ち、いよいよ空が白んでくる頃、やっと、俺達はその場から動いた。
犬の救出&脱出成功って事で!




