42 絶望の声(2)
このままじゃ……売られる……?
慌ててハニトラを身体でつつく。
起きろ……起きてくれ、ハニトラ……!
「ん……」
よし……っ!
ハニトラが、むくりと起きる。
「…………?」
はらりと、ハニトラの腕から輪っかのままのロープが落ちた。
…………?
緩か……ったのか……?
「ユ、ユキナリ……!?」
「し、し〜〜〜〜〜!し〜〜〜〜〜〜っ!!」
黙るように、口の前で指を立てる。このジェスチャーで伝わるのかは知らないが。
「…………?」
だがどうやら、ハニトラには伝わったらしく、ハニトラは、何も言わずにこてん、と首を傾げた。
縛られていた腕をブンブン振って示すと、ハニトラが慌ててロープを外してくれる。
「うぬ……。うぬん……?」
……普通に10分程度かかったが……。
その間にも、
「それでは、本日の商品、1品目です!」
との声が聞こえる。
「これほどの大きな壺、なんと、金で出来た壺!」
……金で出来た壺?趣味悪くないか?
「では、金貨50枚から!」
金貨50枚!?
すごい金額だな。
いや、でもそうか。大きな壺なら金貨50枚よりもずっと大量の金が使われてるだろうしな。
すぐそばに荷物がそのまま置いてあるのを見つけ、それを肩からぶら下げると、一緒に置いてあった短剣を腰からぶら下げた。
「逃げるぞ」
ハニトラを確認し、小さな声を掛ける。
こんな、二人ともがそれぞれ売られてしまいそうな場所に居られるか……っ!
ハニトラが、小さな声で、
「うん」
と頷く。
窓は小さいが、あっち側が壁だとすると……。
暗がりを探すと、重そうな木の扉が見つかった。
……あった!
取っ手が付いているのを確認する。
耳を澄ませ、その取っ手に手をかけた時だった。
「キュゥン……」
何処からか、泣き声が聞こえた。
いや、鳴き声か……?
外からの声かもしれないと、動きを止める。
「キュゥン……」
また。
部屋の、中から……?
見渡すと、暗闇に慣れた目に、一箇所、目に止まる白い毛玉が見える。
大きな鳥籠のようなものに入れられたそれからから、鎖が這っているのを見つける。
まさか……、鎖に繋がれて…………。
その毛玉が震えながら頭を起こした。
そこで、ユキナリは、それと目が合ったのだ。
その瞬間、走馬灯の様に、ユキナリの脳裏に思い出が蘇ってきた。
中学生の頃、受験の苦悩の中でも、両親との不和の中でも、いつだって隣にはアイツが居てくれた。
「ルナ……」
つい、名前が出てしまうほど、そいつは似ていた。
真っ黒な瞳。
真っ白なフワフワの毛。
それほどに、まるっきりマルチーズだったのだ。
……まあ、俺が知っているマルチーズより数倍でかいが。
二本足で立ち上がれば、俺の腰辺りに頭が来るんじゃないかと思えるほどに。
「なんで繋がれて……」
目が合った途端、
「ヒィ…………ン……」
そいつは声にもならない絶望の声を出した。
「ぐ……っ」
これ……売られるんじゃないのか……?
案の定、カーテンの向こうからは、
「今回の目玉として、奴隷を3匹解放する予定でございます。1匹は男。力仕事も出来ますな。1匹は女。これは…………グヘヘへへへ。そして最後の1匹は獣です。焼くもよし、煮るもよし」
なんていう声が聞こえた。
この世界のマルチーズは普通より大きいようですね。




