41 絶望の声(1)
ゴトゴトと、馬車が走る。
箱型の馬車に荷物のように乗せられ、二人は港町へと向かっていた。
青くて、平和な空だ。
昨夜……あんまり飲んだ覚えはないのだけれど、酒の回りが早いのか、散々酔っ払いまくり、部屋に帰れば服を脱ぎ出し、床で素っ裸でゴロゴロと寝転んだハニトラは、二日酔いもなく呑気に外を眺めていた。
酔いも早ければ、醒めるのも早いってか。
しみじみした俺の気持ちを返せよ。
夜中に、ある意味エロい状況ですったもんだするハメになった俺の気持ちを考えてほしい。
服が破れそうになって服を着せるのを諦めた俺の気持ちを。
次の町までは馬車で3時間ほど。
馬車の旅にはなかなか慣れそうにないけどな。
目の前で、銀色の髪が揺れる。
今日はちゃんと、くりくりとした癖っ毛だ。
「馬車、欲しいな」
俺の呟きに反応して。
「馬車?」
馬車のヘリに肘をついていたハニトラが、こちらを見た。
「そ。自分の」
そこで、今はハニトラもいるし、二人でのんびり旅するのもいいかな、なんて思ってしまった事に気づく。
ちょっと照れ隠しがてら、
「いくらぐらいするんだろうな」
なんて言っておく。
「私、頑張って稼ぐ!」
むん、とハニトラが気合を入れたところで、馬車が止まった。
「え?」
キョロキョロとする。
御者のおっさんが、
「じゃあ、ここで休憩にしましょうかね」
と立ち上がった。
休憩……そんなのもあるんだな。
とはいえ、そこは、森のど真ん中。
…………こんなところで、休憩……。
他に乗合馬車の乗客は3人。
男の子とお母さんの親子らしい二人組と、冒険者らしき盾を背負ったおっさんだ。
少しの違和感を感じながら、
「りんごのジュースをご用意しておりますので」
と、差し出された小さな木のカップを受け取る。
くぴくぴっと飲んだハニトラを見ながら、リンゴジュースを煽った。
その時だった。
「あ、れ……?」
クラッと世界が揺れたような気がした。
自分の頭が揺れているんだと気付いたのは、その一瞬後の事だ。
「ハニ、トラ……」
呼ぶ声は虚しく、中空にかき消される。
掠れていく景色の中で、俺は、ハニトラがバタリと倒れる姿を見て、そのまま気を失ってしまったのだった。
「ん…………」
それから、何分……いや、何時間経っただろう。
時間の感覚を失った俺が目を覚ましたのは、暗い部屋の中だった。
「…………!?」
やば……。
ハニトラは……?
周りに人がいるかもしれない。
声を出す事も、頭を起こす事もせず、じっと、闇の中を見つめる。
次第に目が慣れてきて、そばにハニトラが転がっている事に気がついた。
よくは見えないが、小さな鉄格子のはまった窓が見える。
その微かな光を反射して、銀色の長い髪が、暗闇の中で薄く輝いているのが見えた。
そっと、周りの様子を窺う。
どうやら、人の気配は、ないか……。
小さな部屋。部屋の端には重そうなカーテンがかかっており、その向こうはなんだかざわついている気がする。
二人とも、どうやら腕を縛られているようで、床から動けずにいた。
そこで、カーテンの向こうから、大きな声が聞こえてきた。
「さて、本日は、この特別なオークションにお越しくださいまして、皆様どうも、ありがとうございます!!」
オークション…………!?
さてさて。ベタな展開といえばそうですが。