40 最初の相談(3)
「ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ」
すごい音を立てて飲むハニトラに、感心したのも一瞬だった。
酔いの回りが早いのか、ジョッキを置いた瞬間から、ハニトラの顔はすっかり真っ赤だった。
え……?
嫌な予感だなんて言う暇も無かった。
「うきない〜〜〜?なんかおかひくへ〜〜〜〜」
ハニトラは、すっかり呂律が回っていない酔っ払いになっていた。
うわああああああああああ。
異様にバランスよくぐらんぐらん頭が揺れ、床に落ちそうになったところをなんとか受け止める。
「ハ……、ハニトラ……?」
「うきない〜〜〜〜?あらひ、こえ、はいめっておんあ〜〜〜〜〜〜」
「な、なんだって……?」
心なしか、髪の先までクタクタだ。いつものおかしな癖っ毛が、真っ直ぐに落ちてしまっていた。
「お〜〜〜〜〜い」
なんとか歩かせ、店の前まで連れて行ったはいいけれど、ぐらんぐらんするハニトラをこのまま宿まで連れて帰れるとは思えなかった。
「ハニトラ〜〜〜〜」
一応、名前を呼んでみる。
「ひゃあい〜〜〜〜〜」
という返事はしてくれるものの、あまりにも頼りない返事だ。
仕方なく、背中に背負う。
ふにゅん。
「なあああああああああああ」
未だ、慣れない感触を背中に味わい、変な叫びが出てしまう。
……俺も、かなり酔ってるな……。
ゆるゆると歩き出す。
落とさないように。
夜の星の下を。
「ゆひない〜〜〜〜」
イントネーションからして、俺を呼んでいるのだろう。
「ん?どした?」
「あるひぇる」
「…………」
歩ける?
確かに、さっきよりは少しマシなようだが、
「いや、無理だろ」
言いながら、背負い直す。
この国にもお酒は20歳から、なんて法律があったりするんだろうか。
あっても魔物は適用外だろ……。
「あるひぇる〜〜〜〜〜」
ハニトラが、言いながらユキナリの頭をポコポコと叩いた。
「いたいっ!いたいいたい」
仕方なく下ろすと、ハニトラがフラフラと歩き出した。
呆れながらも、いつでも支えられる様にしながら隣を歩く。
「酒飲めないんじゃないか」
「ひらああったんらも」
「……そうみたいだな」
「ふぅ」と一つ、ため息を吐いた。
町の中だというのに、星空は元の世界で見るよりも、満天の星空に見えた。
町の明かりが暗いからだろうか。それとも、そもそもの星の数でも違うんだろうか。
「家の場所もわからないなんて、寂しいよな」
「あみひくらい」
「寂しくない?」
「ゆきなりいてくれたら……あみしくらい」
そう言いながらも、ちょっと泣きそうになっているその青い瞳を見た。
「絶対探してやる」
「…………うん」
「ゆきなりは、さみしいのね?」
「え?」
そんな事、考えた事も無かったな。
なんか、生きるのに必死で。
「どうかな。元々そんなに、もう会ってなかったし。もう会えない覚悟も、してたっていうか」
元々、旅行先かなんかで定住してもいいと思ってたくらいだ。恋人もいなければ、そこまで固執する友人もいない。
元々そんなに、家族に会いたくて寂しいなんて感情…………。
「けど、そうだな。ちょっと…………寂しいかな」
満天の星よりもキラキラとした目が、あまりにも優しくこっちを見たから。
「へへっ」とちょっとだけ照れ笑いした。
…………さすが、ハニートラップなだけはある。
ハニトラちゃんは魔物なので、年の数え方から何から人間とは違う生き物です。




