36 結局二人旅(3)
兎対策を立てつつ、ダンジョンだというニンジン畑に降り立ったのは、翌日の朝の事だった。
ニンジン畑は農家地域にある。
思った以上に広大だ。
見渡す限りの緑の葉。
……いや、所々に穴が……ある?
もしかしたら、あれが、兎穴なんだろうか。
とりあえずユキナリとハニトラ、二人で背中に籠を背負い、畑と対峙した。
軍手はおっけー。
ハニトラも飛びかかるような格好で両手を構えて、気合いは十分。
葉が綺麗に生えそろっているところを見ると、ここまで猪は来ないようだしな。
昨日、兎の事を町で聞き込もうとはしたのだが、あまりいい情報は得られなかった。
相変わらず、「10歳くらいの子がお小遣い稼ぎに使うところなので」なんて、怪しげな言葉くらいで。
それと、素早い後ろ足にご用心、か。
まあ、いくら兎が初心者向けとは言っても。
兎と戦うわけじゃない。
やるしか、ないか。
気合を入れて、葉が育っていそうなニンジンに手をかけた。
ぐ……っ、と手に力を入れる。
ニンジンは、思った以上にすっぽりと抜けた。
「お?」
思っていたより小さくて色は濃いが、叫び出したりはしない。
これ……、思ったよりいけるんじゃないか?
その時だった。
ザシュ……ッ。
耳元で風を切る音がした。
「!?」
手元のニンジンを見ると、下半分が抉れるようになくなっていた。
「は!?」
そのまま、尻餅をつく。
目の前で、パン!と音がした。
目の前の大きな刃物が、兎を叩き落とした音だった。
「…………ハニ、トラ……」
それは紛れもなく、ハニトラの腕から生えた刃物だった。
ハニトラの腕は、肘から下の辺りが刃物になっていた。
兎は、小さかった。
見覚えのあるサイズの兎だ。
けれど、気性が激しいとでもいうのか、力一杯飛びかかってくる。
「これは確かに……初級レベルかもしれないな……!」
短剣を取り出そうとすると、ハニトラが叫んだ。
「ユキナリ!兎は私に任せて!ニンジンに集中して!」
「…………!」
役割分担って事か……!
「わかった!」
ニンジンを取り、籠に放り投げる。
その籠に向かって来る兎を、ハニトラが叩き落とす。
ニンジンを20本と少し収穫したところで、ユキナリは立ち上がった。
かなり遠くの兎穴からも、様子を窺う兎の姿がいくつか目に入った。
「そろそろ戻ろう!」
叫ぶと、
「わかった!」
と気持ちのいい返事が返って来る。
そのまま二人で、畑の外へと駆け出した。
兎は追ってきたけれど、その大半は、畑の端から出てこようとはしなかった。
ダンジョンと名付けられているだけあって、魔物の生息範囲は思った以上に厳しく決まっているのかもしれなかった。
「つ…………っかれたぁ…………!」
なんとか膝を支え、ユキナリが言う。
後ろを振り返ると、思った以上に息を弾ませているハニトラが目に入った。
「た、大変だったね」
真っ赤な顔で笑ってみせる。
そんな、まるで人間のような顔を見せられて、
「ふっ……ふははは」
思わず、笑った。
青い空の下で、泥だらけのまま、ニンジンが22本入った籠を抱えて。
俺達は、思いっきり笑ったんだ。
二人でダンジョンもなかなか上手くいきそうですね!




