35 結局二人旅(2)
冒険者ギルドは、思いの外あっさりと見つかった。
武器屋街を通るとすぐに、見慣れた看板がぶら下がる建物が見えた。
町自体がローパの町より小さいからか、冒険者ギルドも一回り小さいようだった。
とはいえ、中の作りはだいたい似たようなもので、中心にいくつかテーブルが並んでおり、その周りにカウンターがぐるりと囲んでいた。
ギルド員のお姉さんに話しかけようとすると、そそくさと居なくなり、奥から男性ギルド員が出てくる。
こんな時、忘れかけていた呪いの事を思い出す。
……交流してくれる女性もいるにはいるので、なんとなく、恋愛感情がわかないだけで、普通に交流は出来るんじゃないかという気持ちでいるが……。
それもまさか楽観的な解釈なんだろうか。
そのまま、カウンターで、眼鏡の男性ギルド員に対応される。
「この辺りは、猪の森が初級ダンジョンですね。そこのキノコ狩りがこの辺りでは外せない依頼ですね」
…………ということは、あの猪が初級レベルって事か。
俺、それも無理かもしんない。
「あとは、初心者でしたら、初心者ダンジョン、ニンジン畑のニンジン取りがおススメですね」
「え、ニンジンを抜いて来るだけの依頼があるんですか?」
まさかそれ、マンドラゴラじゃないだろうな?
「ああ、あそこは兎が巣を作ってしまって、数年前から初心者ダンジョンとなっていて。この町は猪は捕れるのですが、それ以外の野菜は冒険者頼みのようなものですね」
「じゃあ、明日行ってきます」
そして、思い出したように、俺は、気になっていた事を尋ねた。
「魔物って……、何なんですか?」
「どういう意味ですか?」
「魔物が……、魔女の手下だって聞いたんですが」
「ああ」
眼鏡の奥の小さな瞳が、キラリと光った。
「噂ですね。有力な噂ではあると思いますが、確証がある事でもないです」
「ただの……噂?」
「ただの、というには無理がありますね。魔女に謀反を起こそうとした人間に関連した場所は、かなりの確率でダンジョンと化します。謀反を起こした本人も、家を追われる事になる事が多い」
という事は……、やはり魔物は、魔女の……。
「けれど、ただ、住んでいるだけにしか見えない魔物も多いです。ここの、兎や猪もその部類ですね。ただ一口に魔物といっても、一枚岩ではないという事でしょうね」
じゃあ、全部が全部、魔女の手下と言えるわけじゃないって事か。
少なからず、ホッとしている自分がいた。
それは、ハニトラが魔女の手下ではないと思いたいという事に違いなかった。
「とはいえ、やはり、そういったセンセーショナルでわかりやすい事象は、人の口に上りやすいですよね。もう、決まり文句ですよ。『魔物は魔女の手下だから〜』なんて」
そして最後に、眼鏡のギルド員はにっこりと笑顔を見せた。
ハニトラと二人、町を散策する。
といっても、武器や防具といった戦いに関係しそうなものや、本などのこの世界の情報に関係しそうなものが中心だ。
隣を歩くハニトラをぼんやりと見て、これが演技じゃなければいいと、願うばかりだった。
猪よりもその周りのものの方が価値があります。猪が大量発生してる森なんてそうそう入れないですからね。




