34 結局二人旅(1)
ガタガタと馬車が揺れる。
途中からハニトラが乗る事も、大木で足止めされた事があったからか、特に何も言われる事はなかった。
銀色の髪が風に靡く。
明るい顔をしながらも、俺がどこへも行かないよう、袖をずっと掴んでいるのは、いじらしいというのか、あざといというのか。
それでも隣で無邪気に笑うハニトラを見て、結局、そこまでして手放す必要はないんじゃないか、なんて思ってしまう。
「猪がね、有名なんだって」
ワクワクで言うハニトラに、昨夜の光景が思い起こされるとしても、だ。
裸で抱きついてきたところを襲おうとでも思えば、きっと刃物で切り刻まれて生のまま食べられてしまうんだろう。
…………そうに違いないと思えてしまうとしても、だ。
助けてもらった事実があり、今まで何度も二人きりになっているけれど殺されていない事実がある。
それはどうしても、無視できない事実だった。
「空が青いね」
そう言われ、ふと空を見上げる。
青い。
それは確かに青かった。
元の世界で見ていたのと、同じ色をしている。
雲の雰囲気も、それほど変わらないように見える。
遠く遠くまで。
「ホントだ。青いな」
ガタゴトと馬車が揺れる。
ニッと笑ったハニトラの瞳も、負けず劣らず青いと思った。
そこから2時間ほど馬車に揺られ、着いたのは、ベラッコの町だ。
確かに、近くで猪が捕れるらしく、どこを見ても豚串の屋台が並んでいる。
昨夜あれだけ食べたのだからと、違う食べ物を探すより先に、ハニトラがソワソワとタレがかかった豚串の屋台を覗いている。
「昨日、あれだけ食べただろ」
「あ、れは、本当にお腹が空いてて」
顔を赤くしながら言っているのは、昨夜、猪が一頭消失した件か?それともその後、貰ったスペアリブを10本食べた件か?
「俺はあっちの握り飯食べるから」
指で示した先には、豚串の屋台の中にどんと構える握り飯屋だ。
正直肉ばっかりだと、胸焼けするというかなんというか。
ハニトラはキョトキョトと店を交互に見てから、
「じゃあ、半分こしよ?」
と笑った。
正直、こいつがどう見ても人間じゃなくて怪しいという事以外は、二人旅は楽しいのだ。
まず、新しい町に来たら、宿の確保に冒険者ギルドの様子を窺うくらいだろうか。
宿は、思ったよりも簡単に見つかった。
まあ、ハニトラが、お金も半分こしようと、金貨を使わせてくれたからに他ならないが。
「じゃあ…………2部屋?」
と宿屋のおばさんに言うと、ハニトラは、
「なんで同じ部屋じゃないの?」
と不満顔だ。
「この間みたいに一緒がいい」
「あ〜〜〜…………」
言い淀む。
とはいえ残念ながら、魔女の支配下の置かれているこの国は、治安がいいとは決して言えないらしい。
男女でも、同じパーティーなら、同じ部屋はよくある事だそうだ。
「魔物は魔女の手下だからねぇ」
聞き捨てならない言葉を聞きながら、結局は一つの部屋に収まる。
以前とは違い、今度はちゃんとベッドは2つ用意されている。
魔物が魔女の…………?
その言葉をぐるぐると考えつつ、俺達は、冒険者ギルドを探しに行った。
まあ、仲はいいんですよね。




