32 野宿(2)
結局のところ、馬4頭と数人でかかって、暗くなっても完全には退ける事が出来なかった。
馬車に乗っていたのは半分以上が冒険者で、野宿に抵抗がないのか、誰も町へ戻ろうという者はいなかった。
かといって、道路で野宿をすればどこかの馬車に轢かれてしまう可能性があるので、それぞれが森の中に居場所を作った。
参ったな。
遊びのキャンプならやった事はある。
けれど、何もないところからのサバイバルは初めてだ。
それも、猪?の群れが通ったらしいじゃないか。
ため息を吐きながら、なんとか火を起こすと、一人、倒れた木の幹に腰掛けた。
頭上の木々の隙間から、暗い空が見える。
…………火の色は、この世界でも同じだな。
パチパチと爆ぜる音も。
あっと、感慨にふけってないで、食事しておかないとな。
保存用のウインナーを鞄から出そうとした、その時だった。
遠くで、ざわつく声がした。
それは、何かと対峙する時のような、慎重な声。
まさか……な。
立ち上がり、腰の短剣を抜き放つ。
周りの様子を窺っていると、
「猪だ!陣形!戦えない者は松明を!」
という声が聞こえた。
力自慢の冒険者達は、確かに頼りになるようで、戦いの声がそこここに聞こえた。
「一頭やった!」
「北側、抜かれた!2頭!」
「まかせろ!」
少し安心しかけた、その時だった。
「グルルルルルルル……」
鼻にかかったような唸り声が、すぐ後ろの暗がりで聞こえた。
嘘だろ……。
見えない……。見えない……。
そちらの方へ、短剣を構える。
いつでも飛びかかれるようにと腰を落とした。
その時だった。
ユキナリの背と同じくらいの高さに、光るものを見つけた。二つの光る瞳。
鼻息が聞こえる距離……。
これが…………猪…………?
そこに確かに、猪は居た。
ユキナリの背より大きなそれは、確かに"猪"だといえる形をしていた。
嘘だろ……。
重厚で剛毛な毛皮。
短剣が通るとは思えなかった。
……松明、用意しておいた方がよかったな……。
それでも諦めるわけにはいかず、じりじりと焚き火の後ろへと移動する。
……なんとかなりそうなのは、足か……目か……。
猪の鼻息が、より一層大きく聞こえた時、とうとう猪が駆け出した。
「…………っ!」
焚き火などものともせず、怒涛の勢いでこちらへ向かってきた。
「…………ぐっ……!」
なんとか飛び退り、その猪を避ける。
けれど、すっかりバランスを崩した俺は、その猪に対処するなど、出来なくなっていた。
後ろを振り返るのがやっとで、なんとか猪を睨みつける。
…………来る!
なんとか短剣を猪の方へ向けた、その時だった。
ザン…………ッ!
頭上から、何かが降ってきた。
靡く銀色の髪。
暗い中に白く浮き上がる肌は、何も着てはいない。
「…………!?」
よく見れば、右脚が途中から、大きな刃物になっている。
「…………ハニ……トラ?」
踊るように、右脚を水平に上げると、ハニトラはクルクルと回り、猪の顔を抉る。
猪がハニトラに飛びかかろうとしたところで、ハニトラの刃は、猪の脳天から直撃した。
そこで、戦いは終わりだった。
倒れて動かなくなった猪と。
そこに立つ、右脚を刃にした銀色の髪の女の子と。
「ハニトラ…………?」
「あのね、ついてきちゃった」
えへへ、と笑顔を作るが、元気はない。
「ありがとう、助かった」
強がっているのか、目を泳がせると、それでもどうにもならなかったようで、ハニトラの瞳に涙が滲む。
それは、ただの水、というよりは、指の上で丸くすくえそうな、水にしては弾力がありそうな涙だった。
ぽろぽろとこぼれる涙に、どうしても申し訳なくなってしまう。
一緒にいても、いいんじゃないか?と思ってしまう。
騙されている確証だって、存在しないのだから。
こうして助けてもらって、これが全てハニトラの本心なら、俺はどうすんだよ。
それにどうして…………また素っ裸なんだよ………………。
ハニトラちゃん、身体的な特徴や構造の設定はあるのですが、書いてしまうとR-18になってしまいそうで書けないんですよね。




