31 野宿(1)
鞄の中はパンパンだ。
食料や、着火剤、食器などの野宿する道具類。
冒険者ギルドで、大まかだけれど地図も写させてもらった。
首都までは大まかに大きな都市が3つほどある。
そちらの方面に向かう乗合馬車に乗った。
乗合馬車は、基本的に近くの町やダンジョンまで大勢を連れて行ってくれる馬車の事だ。
遠すぎる為に首都まで直通の馬車は出ておらず、直通で行こうとすれば馬車ごと買わなくてはならない。
流石に馬車一台を買う余裕も、馬を養う余裕も無いので、選択肢は、ダンジョンでお金を稼ぎながら乗合馬車を乗り継いで行く、というものしかない。
順風満帆だ。
そう思ったのは、束の間の事。
「あちゃ〜」
御者がそう言いながら馬車を止めたのは町を出てから1時間も経たない森の中の事。
馬車の前の方がざわつく。
「こりゃあダメだなぁ」
なんだか、嫌な予感がした。
「すまんが、猪の群れがここを通ったらしい」
という事なので、馬車の前の方を見に行くと、大きな針葉樹が道を塞いでいた。
こちらは馬が4頭に、人が10人ほど詰まった大きな幌馬車だ。
幹の太さが人間の身長ほどもある大きな木。
到底、乗り越えるられるものではなかった。
「まあ、うちの馬にかかれば、一晩で片付けてやらぁ」
という事だが。
…………一晩?
まさか、一晩ここに居るって事か……。
周りは暗い森ばかり。
それも、さっき猪がどうとか言っていた森だ。
……というか、普通の猪はこんな大きな木、薙ぎ倒していくものなのか……?
まだ、空は明るいけれど、今日はここを通る馬車は他にないという事だった。
馬に繋がれていくロープを見る。
どうやら、乗合馬車に乗っていた力自慢のおじさん達も、その作業を手伝うようだ。
俺は……。
力自慢のおじさん達を見る。
服の上から見えるだけでもかなりの筋肉だ。
元の世界では軽い筋トレぐらいしかした事がない俺とは、比べものにならない。
「せーのっ」
の掛け声で、「うぉぉぉぉぉぉおおおおお!」だの「ぐああああああああああ」だの、筋肉が弾けるような野太い声が響いた。
ず……ずず……。
確かに木は動いた。
けれど、それも数ミリだか数センチだかいう程度のものだ。
力になれるかはわからないが、他にやる事もないし、一応手伝ってはみるか。
とりあえず、木の横に並んだ冒険者達の端っこの配置についてみる。
「せーのっ」
の掛け声に合わせると、ずず……、とさっきよりも少し、大きく動いたようだ。
「おお〜」
と隣の冒険者らしきおじさんが感心した顔でこちらを向いた。
「やるじゃねえか、坊主」
え?
俺が……?
確かに、さっきよりは動いた感じだったし、押した感覚もあったけれど。
俺……こんな木、動かす力なんてあるわけないけどな……。
不思議に思いながらも、その木をどかす作業に集中するユキナリなのだった。
そんなユキナリを、草むらの陰から眺める視線がひとつ……。
ユキナリくんもそのうち戦えるようになるはずです!