3 俺が異世界に落ちる事になったワケ(2)
「えっ?」
ゴッ……!
耳が痛くなる程の大きな音がして、次の瞬間、
ドォン……!
爆発が起こる。
「何が起きて……」
「あなたは、玄関を出たところで、トラックに轢かれて死にました」
「何言って!?そんなの無理だろ。アパートの2階だぞ?」
「トラックは、2階まで飛んで来たの」
振り向くと、アパートが目に入った。
そして確かに、歪んで見えてはいたものの、トラックが今出てきたばかりの玄関に向かって頭から突っ込んでいるのが分かった。
ドアのサイズにトラックが収まるわけもなく、周りの壁を突き破っている。
「こ……こんなの、ダメだろ。どかせよ」
身体が、震える。
トラックと壁の隙間から、黒い煙の筋が出ているのが見えた。
アパートは燃えていた。
「これは……やり過ぎだろ?なあ、俺以外に用はないんだったら……」
そう言う間にも、アパートはもう一度ドォン……!という爆発音をさせ、黒い煙に包まれていく。
赤い炎が上がる。
他にどんな住人が住んでいるのかは知らなかった。
けれど、だからといって、燃えてしまっていいわけがない。
あのトラックだって、人は乗ってなかったのか?
青ざめた顔のまま見ていると、ある部屋の窓が開き、黒い煙が上がるのが見えた。
人が、居る。
「あーあ、たーいへん。もう、あなたに帰る場所はないわね」
女がニッコリと笑う。
ゾッとした。
「やめろよ……!」
そう言葉にした瞬間、足下の床が消えた感覚がした。
女の顔が、ブレながら上へ動く。
落ちる……!
そう思った瞬間、記憶は途切れた。
次に目を覚ましたのは、森の中だった。
「え…………?」
頬に土の感触を感じながら、目を開ける。
怪我……はないか。
学校に行こうとした時の服を着て。
スマホとCD1枚と財布程度が入っているだけのリュックを持って。
ユキナリは一人、見たこともない森の中で倒れていた。
あの女が居ない事は少しホッとしたものの。
「嘘だろ…………」
少し期待していた。
あれは夢なんじゃないかと。
もしくは、バーチャル映像のような何かで誰かが騙そうとしているんじゃないかと。
けど。
靴の裏で、土の感触を確かめる。
こんなリアルな夢、あってたまるか。
他の可能性があるとすれば、誰かが俺の気を失わせてこの場所へ運んだ、なんて事。
けど、こんな森の中に運ぶなんて可能なのか?
車なんて到底通れそうにない森の中だ。
明るい森ではあるけれど……。
周りでは、ガサガサと音がする。
虫か。動物か。
いずれにしろ、たかだかマムシ程度でも、このTシャツ姿で会うのは心許ないというものだ。
食料もない。
まだ、空は明るいが、いつ暗くなるかわからない。
これが、夢だなんて前提で動くのは危ないな……。
靴を確かめる。幸いな事に、スニーカーの調子は悪くはない。
人の手が入っているのか、森も地面が綺麗に見えていて、歩きづらくはなさそうだ。
仕方ない。
キョロキョロと辺りを見回し、出来る限り明るい方角へ向かって、歩いて行く事にした。
圏外、か。
歩く。
時々スマホを確認して、そして歩く。
こんな森の中ではよくある事なのかもしれないが、スマホの電波は一度も入ってはこないまま、2時間が経過していた。
……それにしても、GPSも機能しないなんて。森の木が邪魔しているのだろうか。
バッテリーは7割ほど残っている。温存しなければ。
やっともうすぐ森を抜けられそうだ。
「ふぅ……」
最後の木に手を突く。
空が見えた。
草原が見えた。
それに……、家がいくつか並んでいるのが見えた。
助かった……。
と思ったのも束の間。
「ここ……どこだよ」
日本の何処かなら、どんな田舎にでも、道があって、車があって、家があったりするもんだろ。
けれど目の前に見えるのは、何処の外国かと思える集落だった。
家がいくつかある。
馬の様な動物も見える。
そして、木や漆喰の様なものでできた家が10軒ほど見える。
庭はなくて、看板もなくて、車もなくて、道もない。
嘘だろ……?
本当にあの女……、俺を異世界に落としたのかよ……。
そんなわけで、異世界に落とされたユキナリくんなのでした。