29 結局のところ、さよならだ(2)
そして俺は、元々持っていた鞄一つだけを持って、ハニトラから離れ、また一人になった。
あの宿はいい宿屋だったけれど、ハニトラの近くにいるわけにはいかないし、かといって、ハニトラに宿を出て行ってもらうつもりもなかった。
……外を裸でうろつきかねないあの女の子に、宿を探せなんていったら、一体どんな宿を探してくるか心配だった。
……あんなに強いのに、“心配“なんておかしな話だけれど。
泣きそうな顔を見せながら、ハニトラは黙って部屋を出ていく俺を眺めた。
最後の顔がそんなだなんて、心苦しいけれど、アレは人間じゃないから。
一人、宿を出て、向かった先は冒険者ギルドだった。
まあ、財布にしている革袋の中に、銅貨1枚なんていう心許ない状況なのだから、仕方がない。
俺はまた初心者ダンジョンに入った。
暗い洞窟の中。
彷徨うゾンビと対峙する。
ふと思い出したのは、ハニトラが舞うように戦ったあの姿だった。
……あんな風に、流れるように戦う事は無理だけど。
短剣を握る。
俺だって……!
「ハァァァァァァァ!!!!」
その勢いは、ゾンビの腕を斬り落とすのには十分だった。
音も無く短剣がその腕を切り落とす。
まるで泥のように、腕の塊が床に叩きつけられた。
やっ……た……!?
バランスを崩したのか、腕がまだついている方にゾンビが倒れる。
ゾンビには、報酬要素はないので、そのまま跨いで洞窟の奥へ向かった。
ハニトラのイメージが、これだけやれるようになった様な気がした。
……やっぱり、あんな顔させて、悪かったかな。
その日は、結局、初心者ダンジョンの地図を描き、壁の石をまた10個ほど集め、銀貨8枚になった。
町を歩き、一軒の本屋に入る。
それは、店舗にしては小さな扉が付いた小さな店で、背の高い棚の中にも外にも、本が山のように積んである店だった。
……古本屋なのか?
とはいえ、この世界や魔女の事を調べる為には、本というのは有用な気がした。
えっと……。
『恋愛』……『冒険』……物語、かな。
魔女の本は意外とないな……?
この国は魔女が支配しているという話だったから、魔女の本が多いのかと思ったけれど、見当たらないな……。
『精霊』の本はそこそこ多いようだが……。
『ウンダが出会った海の少女』『ルヴァの行く道』……。
これも物語みたいだな。
真剣に見ていると、店の爺さんに声をかけられた。
「お前さんは、何の本をお探しかな?」
店の奥、腰の曲がった爺さんが、すっかり白髪になった眉毛の隙間からこちらを見ていた。
「魔女の本を、探していて」
「ほぉ」
どうやら予想外の言葉だったらしく、眉が心なしか上がったように見えた。
「研究論文かね?冒険者のように見えるが……」
「まあ……。ちょっと調べていて……」
「魔女の本なんてそうそう出てきやせん。でもまぁ……?」
爺さんは、試すような口調になった。
「お前さんが店の手伝いをしてくれるというのなら、教えてやってもかまわん」
「へぇ……」
爺さんは、店の奥に泊まるところも用意してくれた。
これは、もしかして、いい方向に進んでるんじゃないだろうか?
ハニトラちゃんが気になるので、早く再会してください!




